ザ・タウン : 映画評論・批評
2011年2月1日更新
2011年2月5日より丸の内ルーブルほかにてロードショー
世界中で数限りなく語られてきた「街の物語」
タイトルどおり、街の物語である。ボストン北東部にある「チャールズ・タウン」がその舞台なのだが、そういった固有名はほとんどどうでもいい。監督・主演が人気俳優のベン・アフレックであるという事実もまた、どうでもいい。とにかくこの映画を見るわれわれの目の前に、貧しく荒れ果てた町があり、その厳しさの中で最低限の暮らしをする人々がいて、暴力・ドラッグ・売春は日常茶飯事、人々はそこから抜け出すことを夢見ては夢破れ、その希望と絶望の間で死んでいく。
映画の歴史の中で、同じような物語は数限りなく語られてきた。いつでもどこでも同じことが繰り返され、人は生き、人は死ぬ。その繰り返しが地層のように積み重なって、われわれの現在がある。どうにもならないその歴史の重さを引きずりながら、われわれは生きているのだ。
だからこそこのタイトル。「ザ・タウン」は世界中のどこにでも、いつの時代にもある街だ。繰り返される物語はわれわれの身体に堆積し身体は「ザ・タウン」でいっぱいになる。これはわれわれの物語でもある。その悲しみと痛みは映画によってというより、われわれの内側から出てきたものだ。厳しく悲しい物語を見たから悲しいのではなく、われわれが悲しいから悲しいのだ。そのことを伝えるために、この映画は作られたのだと思う。主人公たちのまなざしが、心に直接突き刺さる。
(樋口泰人)