劇場公開日 2010年6月5日

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ブライト・スター いちばん美しい恋の詩(うた) : 映画評論・批評

2010年6月1日更新

2010年6月5日よりBunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマほかにてロードショー

ジェーン・カンピオン独特の親密な時空が息づく天晴れな少女映画

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夭逝の詩人と隣家の娘。ジョン・キーツとファニー・ブローンのロマンスをみずみずしくみつめる恋愛映画の傑作。である以上に自分の世界を頑固に抱き、だから輝く“若き婦人の肖像”。監督ジェーン・カンピオン独壇場の親密な時空が息づく天晴れな少女映画だ。

恋人たちが交互に詠じる詩の言葉は、疾風怒濤の時代のカビ臭い遠さを払拭し、光溢れる現実世界のふつふつとした感触として解き放たれる。プラトニックな恋ゆえのなまめきが血の、肉の、うねりとして感覚される。やわな感傷とは無縁でなお、きりきりと甘やかな初恋の顛末を詩人の詩に触発されて少女の側から脚本化した監督は、残酷なほどに剥き出しの若い娘の肉の張りを、エンパイアドレスの胸高なラインに容赦なくからめとり、ぴたりと潔癖に分け目をつけた髪型の尼僧見習い然とした禁欲と対照する。抑制された官能の酷さを全編を貫くトーンとして踏襲し、「平凡な50年を生きる」より「夏の3日を生きる蝶の恍惚」をとる若さの眩しさを慈しむ。そんな慈愛の深さにこれまでのカンピオン映画、その少女の受難と自己確立の物語をふまえつつも毅然と超える境地が拓かれている。

伊達男ボー・ブランメルの姪というファニー(彼女宛のキーツの手紙と詩を集めたペンギン・ブック序文にそう記した監督はそれがヒロインの服装への情熱の比喩ではなく伝記的事実とマネージャーを通じメールで回答してくれた)。彼女が贈り物のリボンひとつに完璧を期すように、生娘の世界の妥協のなさを今も自らの映画に貫きながら、従来の悪夢という安全地帯への逃げを捨てたカンピオンのタフな少女趣味、それは恐れず現実に根を張って作り手の成熟、苦さを得てこその晴れやかさを鮮やかに照り返している。

川口敦子

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