「開放されたからこそ」ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
開放されたからこそ
イギリスが生んだモンスターバンド、ザ・ビートルズのリーダー、ジョン・レノンの青春時代を、現実に忠実に描き出す作品。
映画作りの基本に忠実、テクニックという面でも堅実に固め、羽目を外さない表現を一貫している。遊びに走るのか、黙々と語り続けるのか、どっちつかずの作品が乱発されている昨今にあって、観客側が安心して物語に付いていける良心的な作品に仕上がっている。
とにかくクラシックに、硬派に描きこむ作風を好むイギリスのお家芸ともいえる伝記作品にあって、心がざわつかない安心感を何故、この作品は生み出せたのか。そこには、イギリスが世界に誇る「ザ・ビートルズ」の雄姿を描くという絶対的なルールを巧妙に避けるために、ジョン・レノンの「少年期」を題材に選び出したことが大きく関係している。
ある程度、ジョン・レノンのもつ先天的な魅力、音楽的才能と、ザ・ビートルズの前身となるバンドの活躍を持ち上げておけば、この作品はジョンというスターが生まれる前の「少年期」。あとは好きに物語に味をつけても良いという、縛りの緩さが、大きな安らぎと柔らかさを物語全体に作り出している。伝記作品という硬派に作りこむことを義務付けられたようなジャンルにあって、本作のような意欲的な作風は興味深い。この作品をきっかけに、もっと自由に、もっと乱暴に、「ヒーロー」の物語を色づけていく伝記作品への挑戦が増えていって欲しいと願う。
主演アーロン・ジョンソンのへなちょこ坊主ぶりもまたご愛嬌。彼をかき回してく二人の母もまた、自由に、繊細に物語を魅力あるものに変える。これは、わくわくしてしまうではないか。
「ヒーロー」を格好良く描くという呪縛から開放されたからこその魅力。ゆったりと心落ち着かせて楽しみたい。