「まだまだ現世で映画作りを。」ヒア アフター ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
まだまだ現世で映画作りを。
ついにイーストウッド卿も、この世界に足を踏み入れたのかと^^;
幾度も予告編で眺めてきた、あのややスピリチュアルな世界観。
まさか…出たがりインド人(恒例の)みたいな作品じゃないよねぇ?
なんて不安を抱きつつ、蓋を開ければ…あぁ~いつもの卿の作品。
良かった、そしてホッとした。…何気にユーモアも効いているし。
別に一人の監督が死後の世界をどう描こうが、それはそれ、だけど
今作は死後や来世がどうの…ではなく、今を生きる人間たちへの
メッセージとなっている。死者と繋がることにより、彼らからの伝言が
意図する・せざるを得なくして伝わってくる。それが救いになった者も、
悪夢になった者もいるだろう。少し手を握られただけで自分の過去が
知らない相手に見えてしまうなんて、、、と訝りたくもなるところだが、
霊能者って、本来そういうものなんでしょう?^^;
それよりなにより今回は、とてもささやかなM・デイモンがいい。
髪をきっちり七三に分け^^;地味に暮らす、工場労働者である。
ところが兄の友人?とやらが「見てくれー!」とやってくる。すると、
彼は霊能者へと早変わり…(やりたくてやってるわけじゃないんだけど)
知らないことをバンバン言い当てる。そして…死者からのメッセージを
伝える。…ただ、それだけである。もちろん凄いことなんだけど、でも、
彼が相手にしているのは本当にただ、それだけ。その霊能力のために、
兄の儲け話にのっかるも、すでに疲れ果て、もう普通の人生を歩みたい
と(簡単にいえば彼女が欲しいの^^;)願う、ささやかな男なのである。
霊能者が恋したっていいじゃないか!と応援したくなるこの不思議^^;
そして…冒頭で巨大津波に飲まれ、九死に一生を得たジャーナリスト。
その時に見た死後の世界?が忘れられず…今の仕事に身が入らない。
一念発起して独自にリサーチを進め、体験を出版するまでこぎつける。
ロンドンでは、双子の兄が母のドラッグ治療薬を買いに出て帰る途中、
不慮の事故で亡くなってしまう。いつも兄に頼っていた弟は立ち直れず、
霊能者を使って兄とコンタクトをとりたいと考えるようになる。
この3人が奇しくも…?ロンドンのブックフェアで出逢う。
ここまでの話がわりと普通に在りがちな構成で描かれているところへ、
一気に卿はこの3人を取り込み、交わらせていくのだが、ここが一番
スピリチュアル!?なところかな、と思った。そう、絶対に出逢うはずの
ないところで、誰かと出逢ってしまったり、何かに遭遇することってある。
まさか?が起こるから運命なのだ。こういう偶然は映画ではよく起こる^^;
でも、それがあるから映画もドラマも人生も、俄然面白くなるのである。
不慮の事故や悲しい出来事も不測の事態として起こるが、それも運命。
人間はこんな風に出逢いと別れの波間を漂って生きているものなんだと
実に映画的で^^;出来過ぎた^^;運命にも、ささやかな幸せを感じとれる。
その偶然を必然に変えて将来を夢見ることは、生きていればこそなのだ。
卿ってすっごいロマンチストね…^^;とさえ感じた。
今までの彼の作品と比べると、ラストがとても穏やかで神秘的。
あの料理教室での、目隠し食べ当てクイズ…のまぁ官能的なこと!!(爆)
なんであのシーンだけ、あんな長いんだ?(って皆さん思いませんでした?)
イタリア人を褒めているのか馬鹿にしているのか分からない卿の演出も^^;
トマトばっかり切っていて悲しい顔をするマットを見るにつけ、印象深い。
いや、でもあそこまで通わせたんだから、なんか完成させてほしかったなー。
あと偽霊能力者たちの面白いこと、胡散臭いこと。面白すぎ(特にヨシ)^^;
さらにはここぞ!というシリアス場面で(マットが弟くんに言う台詞)
「大丈夫、急に変わったりしないから。」には心の底からウケてしまった。
こういうユーモアが、卿の健在さを伺わせ安心できる。やたらと霊能力を
題材にした作品が多く作られてきたが、実際今この世で生きている人間に
来世のことなんて分かるはずがない。もしその世界に触れることができる
のなら、確かに逢いたい、話したい人は存在するが、多分向こうも忙しくて
現世に云々…言っている場合ではないかもしれない^^;と思うことにして…
与えられた空間で出逢いと別れの波間を漂いつつ、明日も生きてゆくのだ。
(たまには映画で美味しそうな料理を出して下さいよー。今度こそは^^;)