「肯定も否定もせず死後の世界を考えさせる」ヒア アフター マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
肯定も否定もせず死後の世界を考えさせる
死後の世界がテーマだが、その存在を肯定も否定もしない。あくまでも、死後の世界があってもおかしくないというスタンスだ。そのため、背景には宗教観もなく、人が人として持ちうる純然たる価値観が根底にあり、テーマがすっきりしたものになった。
マット・デイモン演じるジョージも神がかりな存在ではなく、たまたま向こうの世界とコンタクトできる能力が備わった人物としか定義していない。そういうこともあるかも知れない、それ以上、観る側に解釈を強制しない。
スピルバーグが製作総指揮だが、SFでもファンタジーでもない。監督のイーストウッドらしく、人が生きるために必要なものは何か、人は人生の終着に向けて何をすべきかについて考える作風になっている。
また、いきなり大津波のシーンで観客を引き込み、少しダレてきたところでテロ事件を挟んでメリハリをつけるあたりは、もうイーストウッドの十八番といえる演出だ。
そうして終盤にマーカス少年に語りかけるジョージの言葉が、字面ではごく普通のありふれた言葉なのに、一言一言ぐっと心に染み入る重みを持つ。ここにきて、淡々とした物語の中に細かな伏線が幾重にも仕込まれていたことに気づかされる。
人が死んだらどうなるか? 人が昔から抱える疑問を取り上げつつ、亡くなった人のことを忘れず、残った人が前向きに生きることが大切なのだと、民族や宗教を越えて万民に共通する答えへと導いていく。この手の作品としては、思考に妙な足かせが無く、後味がいい。
p.s. ラストについて相方に、ジョージは未来も見ることができるのかな?って言ったら、相方曰く『アレは妄想だ!』そうな。
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