ミックマック : 映画評論・批評
2010年8月31日更新
2010年9月4日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
ジャン=ピエール・ジュネが原点回帰して作り上げたオヤジ版「アメリ」
「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督が、「ロング・エンゲージメント」は無かったことにして、いつもの世界に帰ってきた。
「アメリ」そっくりの色彩と美意識。緑と赤がまったく同じ色。ナレーションで映画のリズムを作る手法も、かわいいふりをしたブラックな笑いも同じ。あまりに同じなのでスタッフをチェックしてみたら、美術も衣装も、編集、脚本、セリフも「アメリ」のスタッフ。なるほど似ないわけがない。
主人公にもう想癖とイタズラ嗜好があるのも同じだが、唯一違うのが主人公の性別と年齢。「アメリ」は女の子だが「ミックマック」はオヤジ。そのせいか、アメリのもう想は“ラブ”に向かうが、オヤジのもう想は“世界平和”に向かう。とはいえ、主人公がヘンで、ある意味かわいいのも同じ。本作はオヤジ版「アメリ」なのだ。
気づけば「アメリ」も、「エイリアン4」を無かったことにして、おなじみの世界に帰ってきた作品だった。この監督はもう、わざわざよそへ行って、原点を再確認する必要はないだろう。ガジェット好きでオモチャ好きで、人間もお人形。プラスチック製やビニール製じゃなくて、ブリキ製または木製。色彩は原色系だが明度と彩度にゆがみがある。ガジェットでいっぱいの本作の地下室を見るだけで、この監督が好きなものが何なのかが分かる。後は原点回帰ついでに、マルク・キャロとの監督コンビ復活――なんてことになったらもっとうれしいのだが。キャロ単独の「ダンテ01」はイマイチだったし。
(平沢薫)