「地獄に溺れる男でも羨ましい愛の物語」酔いがさめたら、うちに帰ろう。 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
地獄に溺れる男でも羨ましい愛の物語
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普段は黙々としたシャイな人柄なのに、禁断症状で突然、声を荒げ、暴れ出し、歯止めの利かない狂気をさらけ出す浅野忠信の二面性がアルコール中毒の恐ろしさを物語る。
自業自得と云われたらそれまでの救いのない壮絶な闘病記をどこかほのぼのと笑いのテイストで見易い世界観に仕上げているのは、永作博美演ずる元奥さんの漫画家・西原理恵子の肝の据わった視点、見守る母親の存在感、そして、愛くるしい子供達の支えが大きく、家族の大切さを痛感した。
最初に精神病院に入院する場面は、両親2人とも鬱病で入院した自分自身の過去を思い出し、顔を背けそうになる。
特に母親は一昨年に生と死の境界線をさまよい歩くほど悪化したので、面会に出向いた際の密閉化した冷たい空気の重さが、モロにフラッシュバックしてしまって絶句した。
しかし、痛々しさだけで進むのでなく、当番制で一悶着する人間関係や回復具合を念願のカレーライスへの一歩に集約する巧さにクスクスと心が和らぐのが、主人公にとっても、観客の我々にもかけがえのない救いだったのかもしれない。
世知辛い世間に上手く付き合えず、自分のもどかしさを酒で忘れ去ろうと酔いつぶれ、破滅的な生涯を送る無頼派の人生に惹かれるのは、言葉で言い難い哀れみと憧れが大きく渦巻いているからなのかもしれない。
では、最後に短歌を一首
『繋ぐ手の 震えを悔いる 白い壁 アングルは追う お帰りの味』
by全竜
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