「登場人物もお話のスケールも小さいが、芯の強さを感じる堅実なアニメーション。」借りぐらしのアリエッティ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
登場人物もお話のスケールも小さいが、芯の強さを感じる堅実なアニメーション。
人間に見つからないよう、ひっそりと暮らしていた小人のアリエッティが、1人の少年との出会いにより経験する冒険を描くファンタジー・アニメ。
企画/脚本は『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』等で知られるアニメ界の生きる伝説、宮崎駿。
アリエッティが出会う少年、翔の声を演じるのは『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』でもジブリ作品の声優を務めた神木隆之介。
小人の少年スピラーの声優には、『DEATH NOTE』シリーズや『カイジ』シリーズの藤原竜也。
翔が滞在する家のお手伝いであるハルの声優には、『ブレイブ ストーリー』で声優経験のある、日本映画界のレジェンド樹木希林。
第34回 日本アカデミー賞において、最優秀アニメーション作品賞を受賞!
原作はメアリー・ノートンが1952年に発表した児童文学『床下の小人たち』。
元々は高畑・宮崎コンビが1970年頃にアニメ化を企画していたらしいが、諸々の事情で頓挫してしまう。
ちなみにこの時の企画は、なんやかんやあって最終的には藤子・F・不二雄の『ジャングル黒べえ』へと帰結する。
テレ朝版『ドラえもん』の企画書を書いたのは高畑勲らしいし、意外とF先生と高畑・宮崎コンビは接点があるなぁ。
話が横道に逸れてしまいましたが、宮崎駿にとって『床下の小人たち』のアニメ化は40年来の望みだったわけです。
『本へのとびら』という、宮崎駿がおすすめの岩波児童文学を50本紹介するという本の中にも、この作品が掲載されていました。思い入れの深い作品なんでしょう。
宮崎駿自らが脚本を担当していますが、監督は若いアニメーターに任せています。スタジオの後進育成を図ったのでしょう。
白羽の矢が立ったのは当時30代だった米林宏昌。通称「マロ」。
鈴木敏夫プロデューサーに、「ジブリで最もうまいアニメーター」と称された人物。
また、先輩に可愛がられ後輩には慕われるという人柄の良さも監督抜擢の理由だったようです。
ちなみに、脚本は宮崎駿/丹羽圭子となっていますが、実際の作業は宮崎駿がホワイトボードにブワァーと書いたアイデアを丹羽圭子が纏めるという感じだったようなので、絶対に丹羽さんの方が苦労している。
宮崎駿が脚本、別の人が監督というパターンでまず思い浮かぶのは近藤喜文監督の『耳をすませば』。
しかし『耳すま』は宮崎駿が絵コンテも担当しているのに対し、本作のコンテはマロ監督自身が描いている。
従って、『耳すま』には感じた宮崎駿っぽさのようなものを、この作品には感じない。
少女に対するフェティシズムが希薄で、キャラクターの持つバカみたいな活力も封印されている。そのかわり宮崎駿にはない繊細さが存在している。
その結果、上品だがどこか物足りないアニメになってしまっているのは確か。
物語は登場人物のサイズ同様非常にミニマル。上映時間も約90分と、他のジブリの長編に比べて短い。
アリエッティにとっては大きな出来事ではあるものの、非常に個人的な冒険の物語である。
こういう地味な物語だからこそ、マロ監督の繊細な資質が十分に発揮されたのだと思う。
丁寧で美しいアニメーションなので、画面を見ているだけで感動できる。
特に背景や美術のクオリティはジブリ作品の中でも最高クラスだと思う。
また、人間の家の床下に住み、「借り」をしながら生活するという小人の描写はワクワクする!
針や両面テープなどの日用品を冒険アイテムとして利用するアイデアは楽しいし、ビスケットや角砂糖のデカっ!!感はスレた大人の子供心をくすぐってくれる。
ただ、シナリオはもうちょっと面白く出来たのではないか?と首を捻ってしまう。
特に人物をうまく扱えていない様な…
捕らわれたお母さんを救い出すという最大の山場。ここに全くお父さんが関与しないのは…
あと野生児スピラーは、登場した意味あったのか?面白いキャラクターなのに、全く活きていなくて勿体ない…。
翔というキャラクターもなんか中途半端でモヤモヤする。
「君たちは滅びる種族なんだ」とか、悪役みたいなセリフを吐く。人類は60億人もいるけど、小人は何人いるの〜?的なやり取り必要あったのか?哲学的なことやろうとしてスベってる。
翔を厭世的でひねくれた少年を描くのなら、もっと嫌なガキとして登場させて、アリエッティとの出会いでだんだんと素直になるとか、そういう王道的なのが欲しかった。
あと口がアップになった時の動きがリアルすぎて怖い。
ジブリ史上最も地味かもしれない物語。
とはいえ、スタジオの若返りを狙った監督起用などのチャレンジ精神は立派だし、高畑勲・宮崎駿作品とは違った味のあるしっかりとしたアニメに仕上がっていると思う。
久しぶりに鑑賞したが、ある程度年齢を重ねてから見たほうが楽しめる作品だと思った。
無邪気だが図々しいお手伝いさんのハルの顔が宮崎駿にそっくりなのは偶然?
それとも、「カオナシってマロに似てね?」と言い放った、宮崎駿に対する復讐なのかも?