雷桜 : インタビュー
廣木隆一、黒澤組の“生き字引”も認める柔軟な監督像
岡田将生と蒼井優が時代劇に初挑戦した「雷桜」が、10月22日に公開される。宇江佐真理の人気時代小説の映画化に当たり、メガホンをとったのは「余命1ヶ月の花嫁」を大ヒットに導いた廣木隆一監督。作法や所作にとらわれず、現代劇にも通ずる時代劇を完成させた廣木監督に、話を聞いた。(取材・文・写真:編集部)
主演の岡田、蒼井だけでなく、廣木監督にとっても時代劇は初めてのステージ。「余命1ヶ月の花嫁」でタッグを組んだ平野隆プロデューサーからのオファーを受けた際も、特に迷いはなかったという。「内容的に時代劇っぽくなかったし、ラブストーリーを軸にしたものだったので、それだったら僕でもやれるかなというのが正直なところです。それに、優ちゃんと将生が出演するというのも魅力のひとつだった。2人とやりたいなあという思いがありましたから」
同作で岡田が演じるのは、徳川家御三卿で清水家当主でありながら、心の病を抱えて屋敷の内外で狼藉を繰り返す清水斉道。蒼井は、初節句の日に誘拐されて以来、10年以上も人里離れた山奥で野生児のように育った遊に扮した。身分の違いから、本来ならば決して交わるはずのない境遇の2人が、奇妙な木“雷桜”の前で出会い、かなわないと知りながらも運命の恋に落ちてしまう。
周囲によってがんじがらめの環境に身を置く斉道と天真爛漫(らんまん)な遊の姿は、時代という枠を飛び越え、現代を生きる我々の眼前に“愛とは何か”を真正面から問いかけてくる。そして基本的な言葉遣いや作法、所作は押さえつつ、時代劇特有の重厚さを払拭。それはある意味で、柔軟な姿勢が奏功して型破りな新機軸の時代劇を成立させたことになる。
「時代劇って、そんなに難しいことではなくて、もっとシンプルなんだという思いがあるんですよ。あんまり蝋燭(ろうそく)、畳、障子があるような時代劇ではなく、もっとロケーションを上手に使って、乗馬シーンでの疾走感を見てもらえたら、もっと楽しめると思います」
廣木監督にとって心強かったのは、プロダクション・アドバイザーとして47年のキャリアを誇る松枝彰が加わったことだろう。「天国と地獄」や「赤ひげ」といった黒澤明監督作ほか、「犬神家の一族」「どら平太」など市川崑監督作に参加。その松枝は、廣木組を「黒澤組や市川組のイメージに近い。スタッフは皆、監督を信頼している。そうやって慕うスタッフがいるのは、昔ながらの監督っていう感じがするし、だからいい作品ができるような気がしますね」と評している。
「勘弁してくださいよ。足元にも及びません」と謙そんする廣木監督だが、松枝と現場をともにした経験はおおいに刺激を受けたという。「いろいろな話を聞けましたし、一緒に仕事ができたことはすごくうれしかったですね。松枝さんは監督寄りのかたで、『監督が思うようにやったらいいんですよ』と言ってくれたんです。時代劇だから“こうしなくちゃいけない”っていう所作もあるじゃないですか。それも『別に関係ないんだ』って、さりげなく伝えてくれましたしね」
さらに、衣装を担当したのは黒澤監督の長女・黒澤和子。「すごく楽しかったんですよ、オレ」と廣木監督は顔をほころばせた。今後も特定のジャンルにこだわることなく、アクションも動物ものも撮ってみたいという。「基本的には人と人の話は撮っていきたいと思います。それと、現場が若返っているじゃないですか。今回、ベテランのかたたちとの融合ができてすごくうれしかったんですよ。そういったことは今後もやっていきたいですね」