「チャイコフスキーだからこそ」オーケストラ! 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
チャイコフスキーだからこそ
素人集団と元プロの違いこそあれども、音楽に対する情熱に関しては同じと言う点に於いて、名作の『オーケストラの少女』から脈々と続く系譜だと思える。
全員の思いが『オーケストラ…』ほど“熱い”訳では無いのは。共産主義による圧制に対して、《亡命》とゆう強い意志で一旦は海外に出たものの。ソ連崩壊後国に戻ったら、その変化に対応出来なくなってしまい、諦めの境地にいた期間が長すぎた為だろうか。
それでも敵対する元辣腕マネージャーを、犬猿の関係だけに「パリだぞ!」と、そそのかす辺りはクスクスっと笑ってしまう。
何たってチャイコフスキーだから。
この後人集めをあっさりと処理しているのが、少し微妙では有る。楽団員1人1人の性格付けの為には、もう少しじっくりとでも良かったのだが、でもそれだと尺が長くなり過ぎてしまい、観客が飽きて仕舞うかも知れず、難しいところ。
どうしてもソリストには彼女でなければ…と、登場するのがメラニー・ロラン。予告編を観た時に「多分…そうなのだろうなぁ〜」と、簡単に予想が付く。実際問題その通りなのだが実は…と、○後に一捻り有ったのがとても良かった。
やっと全員パリに到着。
それまでとその後に、色々と小さい枝葉のエピソードが挿入される。
主に共産主義を復活させたいマネージャーと、ユダヤ人親子の話が入るのだが、結局のところそれ程は重要なエピソードとも言えない。言えないのだが、主人公と彼女との“親子話”だけでも…と言ったところ。
色々と在りながらクライマックスの演奏会場面。
それまでが、「もっと聞かせて欲しい!」と言うこちらの欲求を満たすべく、たっぷりと聞かせてくれる情熱的なチャイコフスキーのバイオリン協奏曲。
そして明かされる真実。
だからこそのチャイコフスキー。決してショスタコビッチやプロコフィエフでは、共産主義に殉じた歴史が在るだけに、意志の強さが出ない。
演奏の最中に、その後を簡略化して描かれる手法も気が利いていた。
最後のエピソードでは胸に熱い物が込み上げて来る。
とても気持ちの良いエンディングだった。
(2010年6月1日シネスイッチ銀座1)