「泣いた」オーケストラ! あるみ伯爵さんの映画レビュー(感想・評価)
泣いた
たまたま正月休みにテレビをつけたら放映していた。
ナチスー?
えー? 歴史とか難しいことわかんなーい。
という状態だったのに、これほどまでに感情移入するとは思わなかった。
珍しく、自分でも驚くくらい泣いた。
指揮者のアンドレイは楽団を解雇されてから、苦節30年。ようやくチャンスが巡ってくる。しかし、大きな決断をしなければいけない。迷いがある夫を、ここで行かないなんてありえないでしょ! と送り出す奥さんが、やたらとカッコイイ。
寄せ集めの交響楽団はハプニングだらけで、パスポートは偽造、リハには遅刻、本番にも遅刻……と、驚愕のドタバタ劇なのだが、それが面白い。
新進気鋭の若手バイオリニストの女性は、アンドレイと演れる! と嬉々として練習に臨むが、リハの時点で呆れ果てる。
もう降りる! やってらんない! と言わんばかりのお嬢さんに、寄せ集めメンバーの一人、ジプシーのバイオリン弾きが薄汚れた手で弾くバイオリン。
これがもうめっちゃくちゃかっこいい。
パガニーニの超絶技巧炸裂。
バイオリンの悪魔じゃないか?と思ってしまうくらいの人間離れした見事な演奏にぐうの音も出ない。
この生命力、自由さ、躍動感。
もうこんなのジプシーのお兄ちゃんに惚れるしかない。
個性派揃いのメンバーの動向も、キャラクターが濃くてとてもいい。
観ていてテンポがよくて飽きない。
そして本番で明かされる、衝撃の真実。
(回想シーンってこうあるべきよね。)
厚みのある音に劣らないほどの、重い過去。
前を向こうとしているからこそ出せる音。
前を向かないと、生きてこれなかっただろう凄惨な時代。
言葉にしきれない切なさと哀しさが込み上げてきて、涙が止まらなかった。
第三者視点だからこそ語ることのできる真実。
だが、「言葉にはできない」真実。
「あの子」が知らないだろう真実。
台詞として告げられないからこそ、アンドレイは音楽によって語ろうとする。
戦争物、は辛くなるし悲しくなるから嫌いだった。
もちろんこの作品にも戦争の惨禍は刻まれているし、胸が苦しくもなる。だけど、身を切り裂かれるような哀しさが、音楽によって涙になって浄化されていくような実感があった。最後に残るのは登場人物それぞれへの愛情と、今の世界の平和を希求する心と、小説の読了後に似た痺れるような倦怠感である。
いつものお家にいるのにこんな体験ができるから、映画っていいんだよなあ~。
そう思わせてくれる良作だ。