タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密 : 映画評論・批評
2011年11月22日更新
2011年12月1日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
実写では不可能なダイナミックなカメラの動きに魅了される
スピルバーグが3年ぶりに監督し、初の3Dに挑んだこの作品は、原作コミックのテイストを守り、想像力豊かな少年が思い描いたような物語を生き生きと映像化した娯楽作だ。
実写ともアニメともつかぬ肌合いの映像で描かれるのは、懐かしさにあふれていながら時代も国も特定できず、現実味がありながら人々もアクションも微妙にどこかおかしな世界。そんな純粋に冒険が楽しめる舞台を得て、少年ジャーナリストのタンタンは、好奇心とひらめき、ちょっとした勇気で真実を捜す。スピルバーグは役者の動きを取り込んだ3DのCGアニメで、リアルとイマジネーションの狭間の冒険活劇に見事に命を吹き込んだ。
その最大のポイントはダイナミックなカメラの動きだ。タンタンの良き相棒である犬のスノーウィが動きだすと、犬の目線の超ローアングルで周りをとらえ、敵が鳥のハヤブサを放つとカメラは縦横無尽に飛翔する。しかも、ガラスに写り込む人物など、画面の隅々までディテールが描かれており、実写では撮れないアクション映像の連続に魅了される。
謎を追うタンタンとスノーウィ、そして鍵を握る酔いどれ船長ハドックのトリオが、それぞれドジを踏む設定と、それを映像で巧みに見せる演出も楽しい。タンタンはすぐ夢中になって隙を作り、スノーウィはしばしば犬の性分に負け、ハドックは酔って何度も理性を失う。それぞれのミスがチャップリンの無声映画のように動きのおもしろさで示され、気持ちよく笑わせてくれる。ハドックが浸る幻想の世界の描写と絡みも味わいがある。
ただ、巻頭のヒッチコック風の洒落たタイトルバックから最後まで一気に突っ走るため、途中で情感を噛み締められないのが惜しい。
(山口直樹)