月に囚われた男 : 映画評論・批評
2010年4月6日更新
2010年4月10日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
人間が自分自身と真に向かい合う局面を描く由緒正しきSF映画
近未来の地球ではエネルギー源が枯渇し、月面での採掘に頼っている。主人公は大企業に雇われ、たった1人で3年間も月面基地に止まり採掘などに従事する労働者。帰還が目前に迫ったころ、ついに精神が錯乱してしまったのか、主人公は誰もいないはずの基地で彼自身とそっくりな存在と遭遇する……。
SF映画は時代の最先端テクノロジーを投入しての特殊効果のお披露目の場として機能してきたジャンルだ。“Science Fiction“である以上、物語に何らかの“科学”がつきまとうわけで、たとえば人間が宇宙を旅するために高度なテクノロジーが必要なのは当然だし、そこで異質なテクノロジーを育む異星人と出会うケースだってある。ところが、この映画はハリウッド大作と比較して、あり得ないほどの低予算とローテクで撮られている。全体に1970年代的なテイストが散りばめられるのは確かだが、それもノスタルジーの産物というより作り手たちの反時代的な(反資本主義的でもある)反骨精神に由来するのだ。
結果、本作は、はるばる地球を離れることで人間が自分自身と真に向かい合う局面を描く映画となった。人は“宇宙人はいるのか?”といった問いを安易に立てたがるが、そもそも“私とは何か?”との最も身近であるはずの問いにすら満足な解答を得ていないのだ。SF映画の傑作がつねに——“外部を通して内部を見る”方法論で——そうした問いを僕らに投げかけてきたことを思えば、本作は由緒正しきSF映画の魅力にあふれている。驚きのラストまで息を飲んで見守ろう。
(北小路隆志)