劇場公開日 2010年6月19日

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「理不尽な社会の中の片隅にある"小さな希望"。」闇の列車、光の旅 平田 一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5理不尽な社会の中の片隅にある"小さな希望"。

2019年3月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

知的

難しい

非常に心を激しく揺さぶる、とにかくズッシリ来る映画です。カスペルという少年はギャングの世界に生きているけど、その世界に居場所を持てない、スゴく孤独な存在です。唯一の心の有り処でさえ、ボスのリマルゴに殺されて(コイツがとにかくクズ野郎)、乗り込んだ列車の上で思わずリマルゴを殺した結果、カスペルに助けられたサイラの旅路を手伝うことに。

ざっとこういうあらすじですが、この少年は被害者であり加害者である立ち位置なので、彼の最期は悲しさよりも自業自得と思いました(悲しくはありましたけど、仕方無いが先行したので)。スマイリーを結果的に地獄へ誘った元凶ですし、一つの善意ですべてが不問になるってことは不可能ですし(そもそもどれだけ善を重ねたところで、不問はありえないから)。

じゃあサイラと過ごした時間がムダかと言うと、ムダではないです。カスペルがいなかったら、サイラは向こう(アメリカ)へ行けなかった。もしサイラと会えなかったら、きっとカスペルは変われなかった。世界がどれだけ残酷だろうと、一つの行為や出会い次第で人は大きな変化に出会える。そして死の瞬間で受けとるものは変われるはず。だからカスペルという少年の味方で僕はずっとありたい。世界がどれだけ非難しようとも、微力だろうとそうありたい。

『チョコレート』の"背中越し"に匹敵しているラストシーンは、静かですが力強くて、微かな救いに満ちてます。メキシコ映画はほぼ初ですが、この時代にこの映画を見られてスッゴく良かったです。

平田 一