劇場公開日 2010年6月12日

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「どうだ!オイラが本気を出したら、こんなに凄いんだぞぉ~というところを意地でも見せつける北野作品。」アウトレイジ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5どうだ!オイラが本気を出したら、こんなに凄いんだぞぉ~というところを意地でも見せつける北野作品。

2010年6月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 おふざけが過ぎたり、シュールだったりで『座頭市』以外北野作品はスルーしてきました。たまたま当選した本日の東スポの試写会で、余り期待しないで参加した次第です。
 音響施設の素晴らしい新橋FSホールということもあり、バイオレンスとして迫力満点!ほぼワンシークエンスの3分前後に1回は、人が殺されたり、指が詰められたりとバイオレンスなシーンが続々展開し、画面に惹き付けられるのでなく、逃げ出したくなります。描写のリアルで凄惨なところは半端ではありません。
 そして肝心の悪い奴らの悪賢さは、もう底なし酷さ。ヤクザといえどもうかうかしていると、さっきまで、池に落ちた犬をたたいていたかとおおもうと、次のシーンでは、立場が逆になっていたり、さらにそれを指示していた陰謀の主すらも、油断したところを填められてしまうのです。最後に笑う人物、そして生き残る人物は、意外でした。
 陰謀が渦巻くなかで、かろうじて主人公のヤクザだけは、刑務所に逃げ込み、追及の難を逃れます。しかし、そこにも思わぬ伏兵が待っていて、自分が捲いた抗争のタネの因果を負うはめになります。冒頭からラストまで伏線の張り方も緻密で、複雑。

 シュールなところもなく、北野作品としては珍しく徹頭徹尾エンターティメントに徹しています。ビートたけしが出演しているのに全く笑いを取らないのも珍しいのではないでしょうか。それくらい北野監督が、執念で売れ線のバイオレンス作品を仕上げたといっていいでしょう。それは決して大衆迎合でなく、これまで培ってきたポテンシャルを総動員して、原点に回帰し、どうだ!オイラが本気を出したら、こんなに凄いんだぞぉ~というところを意地でも見せつけんがために、メガホンを執ったような意気を感じました。
 まぁカンヌでは賞取りを逃しましたが、観客からスタンディングオペレーションを得られたのは納得できます。伊達にカンヌで賞を取る作品なんて、これまでの北野作品のように、なかなか一般受けしないですからね。

 本作がこれまでのヤクザ映画と違うところは、義理も人情もないというところです。今までのヤクザ映画は、組対組の抗争でしたが、本作ではしのぎのために手段を選ばず、兄弟分すら叩き潰す、一つの広域暴力団内部の骨肉のつぶし合いが描かれることです。
 近親の関係にある者が争うだけに、感情の高ぶりも半端ではありません。超豪華な俳優陣を並べて、膨大なセリフの量と凄まじい怒号が飛び交うど迫力に北野監督の真骨頂を見る思いでした。
 表向きは、薬を売買している組は許さないといいつつ、ホンネでは配下の組の所場をいかに因縁つけてかすめ取るか計略を巡らす山王会組長の関内(北村総一朗)のタヌキオヤジぶりねなかなか。それを支える律儀な若頭の加藤(三浦友和)の変貌した姿には驚かされます。
 また関内の計略に翻弄される大友(ビートたけし)が従順から、ヒクヒクと反逆へ転じる顔つきの変化が、たけしならではの演じ方だと思います。
 また大友組の組員役の加瀬亮や椎名桔平らの迫真切れ演技が凄い!繊細な役柄が多かった加瀬だけに、その切れ方には北野監督も大絶賛を送ったそうです。加えて、椎名の張り詰めた表情は彼の主演した『レイン・フォール/雨の牙』よりも本作のほうが締まっていました。

 ところで笑いの少ない本作で、唯一ユーモラスな存在が、大友の後輩でマル暴担当刑事の片岡(小日向文世)。同僚の前では、強面なのに一度サシになって対面すると、とたんに大友にへいこらし始める軽さが可笑しかったです。但し、片岡も単にヤクザから金を巻き上げるだけでなく、一連の陰謀に荷担しているなかなかのワルなんですね。

 以上、北野作品を敬遠してきた人にも、本作は自信をもってお勧めできます。小地蔵に騙されたと思って、見てください。

流山の小地蔵