「【78.3】ソルト 映画レビュー」ソルト honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【78.3】ソルト 映画レビュー
作品 2010年『ソルト』批評
作品の完成度
本作は、CIA捜査官イヴリン・ソルトにかけられたロシアの二重スパイ容疑と、それに伴う逃亡劇を描いたアクション・スリラー作品。二転三転する予測不能なストーリー展開と、主演アンジェリーナ・ジョリーの体当たりなアクションが高次元で融合し、高い娯楽性を実現。終始息つく暇のないノンストップな展開は観客を強く引きつけ、スパイ・アクション映画として申し分ない完成度を見せる。特に、ソルトが真の敵か味方か判然としない状況が、緊張感を高める要素として機能。彼女の孤独な戦いを通じて、国家間の陰謀と個人のアイデンティティというテーマを掘り下げる試みも見られる。
しかし、そのスリリングな展開を優先するあまり、一部でご都合主義的な脚本や、荒唐無稽とも取れる超人的なアクションが目につく点も否めない。特に物語の終盤、黒幕の存在が明らかになる**「どんでん返し」は、続編を意識したかのような強引さが残り、物語の論理性よりもスペクタクル**を重視した印象。それでも、監督フィリップ・ノイスの巧みな演出と編集により、一連の欠点は勢いで押し切られ、スパイ・アクションの快作として評価される。
監督・演出・編集
監督フィリップ・ノイスは、サスペンスとアクションの緩急を見事に操縦。CIA本部からの脱出シークエンスや、高速道路でのカーチェイス、物理法則を無視したかのようなビル屋上でのスタントなど、迫力あるアクションを切れ味鋭く描出。モンタージュを多用した編集は、ソルトの逃亡劇にスピード感と緊張感を与え、作品全体のハイテンポなリズムを作り上げることに成功。特に、アクションシーンにおけるカメラワークは、ジョリーの動きを際立たせ、臨場感を醸成。演出は、ソルトの内面的な葛藤よりも、表面的なサスペンスとアクションの連続性に焦点を当て、娯楽作としての魅力を最大限に引き出すことに注力。
キャスティング・役者の演技
主演
アンジェリーナ・ジョリー(イヴリン・ソルト役)
CIA捜査官でありながら、ロシアのスパイ「カッツ」として育てられた二重スパイ容疑をかけられる主人公。タフで孤独な戦いを強いられるソルトを、抜群の身体能力と冷静沈着な表情で体現。髪の色や服装を変えるカメレオンのような変装術も披露し、役柄の多様性を示す。アクションシーンは、痛々しいほどのリアルさと優雅さを兼ね備え、ハリウッド屈指のアクション女優としての地位を再確認させる。その演技は、愛する夫と国家への忠誠の狭間で揺れ動く複雑な内面を垣間見せつつも、基本的にはストイックで戦闘マシーンとしての側面を強調。彼女のカリスマ性と存在感が、荒削りな部分もある物語を牽引する最大の原動力となっている。彼女がソルトというキャラクターに深みと説得力を与えた功績は大きい。
助演
リーヴ・シュレイバー(テッド・ウィンター役)
ソルトの上司であり、彼女の逃亡を追うCIAのカウンターインテリジェンス担当官。一見、ソルトを信頼し擁護する良き理解者として振る舞いながら、物語の重要な転換点で衝撃的な事実が明らかになる。シュレイバーは、知的で落ち着いた態度の中に油断ならない影を忍ばせ、二重の顔を持つキャラクターを見事に演じきる。
キウェテル・イジョフォー(ピーボディ役)
ソルトを執拗に追うCIAの追跡チームリーダー。ソルトのスパイ疑惑を確信し、冷静かつ徹底的に彼女を追い詰める役どころ。イジョフォーは、倫理観とプロフェッショナリズムの狭間で苦悩する捜査官の複雑な感情を、抑制された演技で表現。物語における**ソルトの「影」**のような存在感を放つ。
ダニエル・オルブリフスキー(オルロフ役)
ソルトたち「カッツ」を養成したロシア人教官で、陰謀の黒幕の一人。冷徹で狂信的なイデオロギーを持つ指導者を、重厚な存在感と威圧感で演じる。彼の登場シーンは、ソルトの過去と任務の過酷さを明確に示し、物語の根幹に関わる重要な役割を果たす。
アウグスト・ディール(マイク・クラウス役)
ソルトの夫でドイツ人のクモ学者。ソルトの唯一の弱点であり、彼女がスパイ活動から足を洗うきっかけとなった愛する存在。彼の純粋さとソルトへの深い愛情が、彼女の人間性を際立たせるコントラストとなり、物語に感情的な深みを加えている。
脚本・ストーリー
脚本は、ブレント・ケイブとカート・ウィマーが手掛けた。ソルトが二重スパイだと告発され、自身の潔白を証明するために奔走する物語の骨子は明快。しかし、その過程でソルトの真の正体と目的が二転三転する構成が特徴。冷戦時代に作られたスリーパー・エージェントという古典的なテーマを現代に蘇らせ、国際的な陰謀として描く。物語のテンポは非常に速く、サスペンスとアクションの連続で観客を飽きさせない。一方で、プロットの穴や動機の不明瞭さ、続編を匂わせる唐突なラストなど、物語としての緻密さは犠牲になっている部分がある。
映像・美術衣装
映像は、現代的な都会の風景を背景に、スピード感と緊迫感を強調したシャープなルック。CIA本部やホワイトハウス周辺など、アメリカの権力中枢が舞台となることで、陰謀のリアリティを補強する。美術は、ソルトが即席で武器や爆弾を作り出す隠密行動の描写にリアリティを持たせるため、機能的かつ無駄のないディテールを追求。衣装は、ソルトの変装とアクションの機動性を考慮した実用的なデザインが主。特にアンジェリーナ・ジョリーが着用する黒の衣装やカジュアルな服装は、彼女のシャープな美しさと戦闘能力を引き立てる。
音楽
音楽はジェームズ・ニュートン・ハワードが担当。緊張感あふれるオーケストラとエレクトロニクスを融合させたスコアが、作品のハイテンポなアクションとサスペンスを強力にサポート。重厚なリズムと疾走感のあるメロディが特徴的で、特に追跡シーンではアドレナリンを刺激する効果を発揮。主題歌や挿入歌といった形でのフィーチャーされた楽曲の記載はなし。全編を通じて劇伴(スコア)が感情的なトーンとアクションの勢いを支える要となっている。
受賞歴
本作は、第83回アカデミー賞において、音響録音賞にノミネートされた事実はあるものの、受賞はなし。主要な映画祭での大きな受賞歴は確認できない。
作品 Salt
監督 フィリップ・ノイス
109.5×0.715 78.3
編集
主演 アンジェリーナ・ジョリーB8×3
助演 リーブ・シュレイバー B8
脚本・ストーリー カート・ウィマー
B+7.5×7
撮影・映像 ロバート・エルスウィット A9
美術・衣装 スコット・チャンブリス B8
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
B8