悪人のレビュー・感想・評価
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真っ直ぐに伝わるメッセージ
「誰が悪人だと思う?」
この映画(おそらく原作も)で言いたいことは、視聴者、読者への問いかけだ。
約束を反故にされて別の男の車に乗った女を山中で助けようとして、逆に訴えてやるとまで言われて、逆上して殺してしまう男。
直後に出会い系で出会いこの男を愛することを誓い自首を止めさせてしまう女。
軽薄で約束すら守らず、助けに来た相手を訴えるとまで言う女。
お金持ちだがワガママで乗せた女を山中で車から蹴り出して置き去りにする男。
その他にも、犯人の育ての親にウジ虫のように群がるマスコミや殺された女を最初に置き去りにした男にスパナで殴りに行く被害者の父親、失踪した姉を心配していたのに事実を知ると保身のために姉を罵る妹、犯人を幼少期に捨てて今更被害者ヅラする母親など悪人候補だらけでした。
たしかに殺してしまう程の事ではなかったのかもしれない。殺人は悪だ。しかし犯人の幼少期に捨てられた過去や現状の生活を考えれば、追い詰められてそうしてしまう気持ちも分からないでは無い。一旦自首することにした犯人を一緒に逃げようと言ってしまう彼女の犯人に対する愛もよく分かる。山中に捨てられる女も犯人に対しては不誠実極まりないし、彼女を山中に捨て去り、後に殺されていることを知っても笑い話にしてしまうボンボンもありえない程酷い。
これらが見事に心情も含めて素晴らしい演技で構成されており、本当に心に突き刺さった。
ミツヨ♥
オススメで出てきて昔観たことあった気がしたけど思い出せなかったので観てみた。
人間の不完全さゆえに起こってしまう悲劇がよく描かれていた。
求められて大切に思ってもらえることが人間にとっての幸せなんだと思えた。
最後のユウイチの選択がミツヨを思ってのことだと普通に思えるほどにユウイチとミツヨのとの愛が作品内で育っていた。
殺されたアバズレ女とボンボンクソ男の人を見下した態度は悪人そのものだが見下さないと自分がやっていけない生きられない人間になってしまったそれなりの経緯があるのだろう。
アバズレ女の父親がスパナを投げ捨てたのは帰りを待つ妻がいたからと見れた。まあ、ガッツリスパナで殴るには怒りの矛先が少しズレていたこともあるだろう。
この物語を映画として全体的に俯瞰して観ることができる視聴者の視点を悲劇の登場人物それぞれが持っていれば、なんのドラマも起こらなかったかもしれない。
未熟で行き過ぎてしまう愚かな人間同士がそのときミラクルに神がかって冷静になって頭良くなって幸あれ。
こんな女、どうなの?
3 こんな女、どうなの?
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主人公妻夫木は30前後で田舎暮らし、親孝行だが暗いしモテない不器用な男。
所詮お遊びという印象のある出会い系サイトに、本気で出会いを求める。
知り合った女とリアルで会うが、遊ぶ事、ヤる事しか考えてないバカ女だった。
しかも2回目に会う約束を破って、遊び上手な別の男と遊びに行く。
そしてバカなんで相手を怒らせ、夜の人通りのない道で車から下ろされる。
尾行してた妻夫木が助けようとするが、バカはヒステリーで悪態つきまくり。
挙句の果てに、お前にレイプされたって言いふらすとか言い始める。
不器用な妻夫木は追い詰められ、気がついたら首を絞めて殺していた。
次は深津と出会い、いきなりホテルに誘ったら応じてくれていきなりヤる。
そして深津は別れ際に、本気で出会いを求めていた事を告白する。
つまり2人とも似た者同士だった。深津以上に妻夫木は自己嫌悪に。
後日、我慢できなくなった妻夫木は深津に会いに行き、自分も本気だったと告げる。
2人は協調し始め、殺人の話も共有し、共に逃げることとなる。
そして長崎県の寂れた灯台にて生活を始める。
自分を理解してくれる女と出会ったことで自分の犯した罪の重さに気付く妻夫木。
それらを全て受け止めてあげようとする深津。
結局警察が来て突入されるが、妻夫木は女の首を絞めようとする。
あくまで女を「被害者」でいさせようとする思いやりであった。
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まず主人公は殺人犯だが、この人の心理はわからんでもなかった。
何せ不器用、で真面目。バカ女に出会ってしまったことは本当に不運。
殺人は無条件で犯罪だが、悪人か善人かと言うとむしろ善人だろう。
っていうか、ここまでバカな女いねーよww
周囲に助けを求めることのできない状況であの言動は頭悪過ぎ。
殺されるとまでは思わなかったとしても、ドツかれるのは確実やろw
長年信頼していた相手に裏切られて取り乱すならわからんでもないけど、
出会って間もない奴に裏切られただけで取り乱すんもおかし過ぎやし。
主人公への同情を誘うため、無理に有り得んキャラを作ったとしか思えん。
一方、バカ女を置き去りにした男はどうしようもない男ではある。
バカ女の死の間接的な要因やのに、無罪やからって、この話をネタにする奴。
でも男がバカ女を車から降ろしたシーンはめっちゃ共感できたけどなあ。
よく知らない男の車に簡単に乗るわ、ベラベラ馬鹿丸出しの話ばっかするわ、
誰の車にでも乗るお前なら、ここで下りても帰れるやろうがってさ。
下ろす場所はともかくとして、体目当てで調子だけ合わせる男よりはまとも。
で、これはおれが見逃しただけなんかも知れんが、深津が意味不明。
映画の中では美人ではない普通の人ってことになってるんやとは思うけど、
どう見てもそんなに不幸なようには見えへんのよなあ。
心に闇を抱えてなければ、あそこまで妻夫木を愛するなんてないと思うけど。
出会って間もない危ない人間に、平凡な人間が恋をしますか?
それともストックホルム・シンドロームに似た、理解しがたい心理があるの?
百貨店の紳士服売り場勤務という、むしろ人がうらやむような状況の女が、
妻夫木と出会って初めて幸せになれると思った、とまで言うのは何故?
アンタはそんなにモテなくないし、愛してくれる男だっているでしょうに。
そこがわからんもんやから、深津の方には全く感情移入できんかった。
だって、目先の破滅的な恋愛に酔ってるだけにしか見えんのやもん。
しかもその自己陶酔のために、妻夫木に自首を勧めずに逃避行を促す。
それによって確実に刑期は長くなっとるわけやからなあ。
20年位前のドラマで高校教師ってのがあったけど、
共に絶望を抱えている男女が破滅的な恋愛をするという内容だった。
そこに説得力があったために共感できたんやが、この映画はその部分がなあ。
理屈じゃないんやろが、根拠が弱いとどうしても感動が薄れてしまうよなあ。
深津絵里って別にタイプじゃないが、九州弁が可愛かった。
っていうか、九州弁って誰がしゃべっても可愛いよねw
何度見ても良い、最高の恋愛映画
恐らくtotalで7、8回は見てます。
見る度に切なくなるが、この感情を欲してまた見てしまう。
人を殺める描写だけが非現実的だが、その背景はとても生々しく、没入してる人は「あり得る」とすら思ってしまう。
田舎で解体業をしながら祖父母と暮らし、毎日が同じ事の繰り返しで、縋るモノを求める祐一。
また、違う田舎町で生まれ育ち、寂れた紳士服店で働きながら、『生まれてから小学中学高校、そして大人になった今も、自分の人生はこの狭い世界の中で完結してしまっている』と、自分の人生を見つめ直し、何とかして変えたいともがくミツヨ。
そんな2人が出逢い系で知り合い、かけがえの無い存在になって行く。
この設定を、どうやって思い付いたのかが謎だが、リアルでしか無い。
というか、リアルかどうかも判らない筈なのに、
あるあるだと思って見入ってしまう。
2022年の今だって、祐一とミツヨの様に、
自分の人生をどうにか変えたいともがいている男女はきっと居ると思う。
そして、そんな人達の方が相手の本質と向き合う事が出来るのかも知れないとすら思える作品。
兎に角、私の中では色々完璧な作品です。
殺される女と殺す男そしてすがる女。
2010年。李相日監督。その年のキネマ旬報のベストワン作品。
激情に駆られて女を殺す男・・が主人公・祐一(妻夫木聡)
この映画では殺される女・佳乃(満島ひかり)を情け容赦なく
断罪している。
ひとつ→出会い系サイトで出会った祐一と関係を持ち、金銭を要求していた。
ふたつ→デートの約束をした祐一が車で1時間半も掛けて待ち合わせ場所に来たのに、
見た目の良い金持ちの大学生の増尾(岡田将生)の車に目の前で強引に乗り込む、
・・・そう言う、当て付けを堂々とやる。
そして大学生の増尾。
この男もゲスの極み・・として描かれる。
テーマは「人間の善と悪」
殺した男には、殺す理由があり、
殺された女には、殺される理由がある。
そして増尾。
ドライブの途中、人気のない峠で、気に食わないとの理由で佳乃を、
助手席から蹴り落としている。
峠で車から降ろす→付けていた祐一もどうかと思うけれど、
佳乃の「レイプしたと訴えてやる!!」との言い草も、人間として度を超えている。
そしてもうひとりの主役。
紳士服店に勤務する光代(深津絵里)
佳乃と同じく出会い系サイトを通じて祐一と知り合い、殺人犯と知りながら、
逃避行に・・・。
自首する決意をして警察署に向かう祐一を、クラクションを激しく鳴らして、
引き止め「一緒に逃げよう」と誘う。
光代は善人代表なのに結果として祐一の刑期を長くする行動を取らせてしまう。
皮肉なことに、殺人犯の祐一より、大学生の増尾の方が極悪人に見えてしまうのだ。
爽やか系の岡田将生が軽薄で我儘で冷酷な男を演じて上手い。
佳乃の父親は増尾を恨み、スパナを握って増尾に迫るが、遂にスパナを振りおろす事を、
自制する。
怒りと恨みを、自制する佳乃の父親。
挑発されて自制心を失った殺人者・祐一。
柄本明の被害者の父親と、加害者・祐一の祖母役の樹木希林。
役になり切って実に上手い。
逃げ場がないほど祐一を追い詰める佳乃。
佳乃役の満島ひかりもズルい女が印象的。
モントリオール映画祭で主演女優賞を受賞した深津絵里。
37歳の光代は婚期も遅れた年齢で、初めて性に溺れたのかも知れない。
そうでなくては、逃避行の理由が見当たらない・・・
(5キロ圏内の人生に飽き飽きしていたのかも、知れないね)
筋運びと構成が実に巧みだ。
久石譲の音楽がかなり主張して鳴り響く。
我が愛する妻夫木聡は、嫌いになれない殺人者を淡々と、そして演技し過ぎず、
バランス感覚が素晴らしい。
殺人を想像することと、実行することには、
大きな乖離がある。
飛び越えてはいけない・・・
そんな気がする。
本当の悪人とは?
犯罪者だけが悪なのか?
犯罪さえ犯さなければ善なのか?
他人を見下す男
男のスペックによって態度を変える女
子供を捨てる母親
こういう存在は糾弾されずに、不器用ゆえに犯罪を犯せば即悪人なのか?
この映画を観ると考えさせられます。
てか、岡田将生は暴行罪にはならないのですか?笑
本作は2010年の映画ということで、2021年現在鑑賞してみると社会背景の移り変わりをとても感じます。
今はマッチングアプリという洒落た名前になっていますが、当時は出会い系=よく分からない人がたくさんいる怪しいモノ、というイメージ。当時を知る人が見れば「こんな時代もあったなぁ」とすんなり入ってきますが、デジタルネイティブ世代には理解しづらい内容かもしれないですね。
久々の当たり映画
最近暇すぎて映画ばっかり見てて、またよく分からない内容なんだろうなって見てたら、分かりやすく話が展開されていて、どんどん続きが気になっていく映画でした。それにしても、妻夫木くん若すぎる。
深津絵里さん変わらなすぎる。
昔の映画だから、脇役が今をときめく俳優さん、女優さんだから、より楽しめた。
たぶん妻夫木くんは悪くない。でも、結果的に暴力はダメだよね。でも、自分が好きになった人が殺人犯だったら、あんな感じで一緒に逃げれないと思う。
だって怖いもん。
でも、愛があるからかなぁー殺人犯じゃなきゃ、一生のパートナーだったかもしれないのにな。
好きかも。
見逃していたけど今頃拝聴。
泣けた。
本当の悪人は誰だろう
手を下さなくても間接的にきっかけをつくった心無い大学生か
罪悪感を感じる殺人者か
人の心を踏みにじるマスコミか
直接的な犯人でなくとも殺したいほど憎む被害者の親か
それとも自ら殺人に導かせたかのように描かれる被害者か
無垢な人からお金をだましとろうとするチンピラか
誰が悪かったのだろう
皆悪いんじゃないか
メディアに出るから悪人とされるけれど
メディアにさらされない悪はどうなのか
日々見過ごされる悪は何なのか
そう感じた。
それぞれの立場が明確に描かれていて
加害者の母親がスカーフを取り出すところ、
被害者のお父さんがご遺体のカバーを直すところや夫婦のケンカ、
イカの目だったり、
運転手さんの言葉だったり、そのあと頭をさげるおばあさんだったり
なんか細かい所に手が届くな
最後、殺そうとした意味はわからないけど
やはり犯人に感情移入しちゃうよね
置いてかれたと思った灯台で
母と同じで自分は捨てられたと思っただろう犯人が
帰ってくる恋人を見たときのシーンが良かったし
すごく泣かされた
あと静かな音楽もgood!
個人的にはかなり面白かったです。 原作との尺の違いは感じましたが、見応えはありました。 役者陣の演技も素晴らしかったです。
十分に面白かったです。
とはいえ、原作を読んでいる人間からすると、祐一が悪人なのか?という所がどう描かれるか?が一番のポイントだったかと思います。
その選択を一気に迫られるラスト。
残念ながら原作ほどの衝撃は感じなかったです。
エピソードとして、祐一が光代と出会う前に通い詰めた風俗嬢との再会シーンを省略してしまったことが気になりました。
彼女の証言から出る、無口な祐一が悪人を演じることで相手を庇う姿や、朴訥とした性格など、原作ではそこから祐一の人間性や、自分に負い目を持つ相手に対して敢えて自分が悪人の汚名を被って相手を守ろうとする優しさを描いていたように思います。
そういった意味では本と映画での尺の違いをクリアできなかったのかな?と思いつつも、もしかしたらラストまでその迷いを受け手に与えない為に敢えて映画から外したのか??とも思い、この部分は意見の分かれる所ではないかと思います。
原作を読んだ上とは言え、個人的にはラストで祐一が光代の首を絞めるのは、駆けつけた警察に対して、光代は自分を匿った人間ではなく、自分が誘拐した人間であることを見せつける為だと思っています。
それは、警察に対してだけではなく、光代自身にもそう信じさせて、自分が居なくなった後に完全に自分を恨むように仕向ける一つの優しさだと思いました。
だからこそ、ラストでの豹変ぶりで一気にその思いをぶつけて欲しかったのだけれど。
意を決した祐一の流暢な喋り口と狂気の表情はなかなかのいい演技だったとは思いながらも、やっぱり原作程の衝撃は感じなかったです。
モントリオール映画祭で最優秀女優賞を受賞した深津絵里の演技は素晴らしい物でした。
自分にも他人にも真面目過ぎて、人との踏み込んだ接し方が出来ずにどこか自信が無い雰囲気。
そういった女性が自分を受け入れてくれる男性を見付け、また秘密を共有することで、何処までも尽くしてしまう姿をしっかりと演じていました。
光代のように常識に満ちた真っ当な女性というのは身近に思い当たる人がいますが、彼女ののめり込む姿が浮かんでしまい、のめり込むほどに危うさを感じてヒヤヒヤとしながら観ていました。
他にも演技力に一定の評価のある役者を並べたこともあって、見応えのある演技にも圧倒される映画でした。
祐一の祖母の樹木希林、その祖母をだます松尾スズキ等。
個人的にはバスの運転手を演じたモロ師岡は小さな役どころながら、強烈に印象の残る演技だったと思います。
「悪人」そして「愚行録」と。
まあまあ暗い気もちになる映画だけど、評価は4です。
殺人事件を通じて、男女関係を通じて、加害者、被害者、登場する人々の様々な心情を生々しく描いた映画である。
映画「愚行録」を一ヶ月前にみたが、この映画「悪人」での演技もあっての愚行録だったのかなあ。妻夫木聡は、まあすごい俳優だ。
しかし、満島ひかりは、またまた幸薄い役柄で出演している。彼女はどうか明るい役柄も与えてもらえないか。心配になる。
殺人は絶対的な悪である。
祐一(妻夫木聡)の育った環境や、それまでの人生は決して、恵まれたものではなかったかもしれない。しかし、なぜ殺人を思いとどまる事ができなかったのだろう。
しかし、満島ひかりに侮辱され、レイフされたと嘘ついて訴えると言われ、逆上して、彼女の首を締めてしまった。
確かに祐一は、悪い人間とは言い切れない。父の病院に連添い、祖母と温かな会話を交わしながら細々と暮らしていた優しい青年ではなかったのか。
後半で話されるが、幼少期の体験から自分の言った言葉なんて信じてもらえないと彼は思い込んでいた。人を信じる事ができない。冤罪を恐れ恐怖し混乱に至っての行動だったのかもしれない。衝動性は誰にでもあり、怖いなと感じる。
もっと早く光代(深津絵里)に出会えていたら、劇中にある言葉の通りなんだがなあ。
一方で岡田将生の役柄は醜い。
まだ学生にして、人を使い捨てにしか考えないような人間。娘を殺され柄本明が、なぜ車から下ろし置き去りにした!と詰め寄るシーン。この悲痛な叫びにすら何の感情も動かさない。人の子として、生まれてきたのに、彼の人間性はどうやって形成されたのだろう。
最後のシーン。
なぜか、本当に自分の人生を捨ててまで、祐一を信じて愛した光代の首を、祐一は締める。俺はあんたが思ってるようないい人間じゃない。謎だった。
祐一は、祐一を誘い逃亡してしまった光代に罪が及ぶことを恐れ、自分が連れ回して殺そうとしたという事実を作りたかったのだろうか。本当に殺す気があったのか?
ないよね?意味わかんないし。僕にはこの謎がわかりませんでした。
また昨今の世情を考えてみる。恋愛というか男女の関係において、いや社会の仕組みもそうなってきている、人を自分の道具にしか思わない人間が増えているのではないかと思わされる。悲しい現実だ。
昔々見た映画「静かな生活」の中で、人は人の道具ではない。その言葉を聞いた時にググッと気持ちを揺さぶられた思いを思い返す。
満島ひかりも、被害者ではあるが、祐一を道具としてしか見ておらず、皮肉な事にその満島ひかりも岡田将生に道具のようにしか扱われなかった。山中の路上に放置するなど物いがいの何ものでもないだろう。
人間は物ではない。
考えさせられる映画のひとつだろう。
愛されたかっただけなのに。
ずっと見たいと思っていたまま、10年が経過していた。スマホ普及による凄まじい情報化社会になる、移行時期、境目時期にある2010年だったと記憶している。
作中でも折りたたみ携帯電話やメールでのやり取りが出会い系に使われていて、今やアプリで出会った人との結婚も主流になりつつある時代。背景がよく見えない相手との出会い方に疑問を抱く意見は今後も消し去られる事はないだろうが、顔がわかる合コンやナンパで出会ってもクズはいる。
出会い方や出会う数や相手のステータスより、出会った縁をどれだけ大切にできるか、人の気持ちを見つめ尊重できるか、が結局自らをも温めてくれることがよくわかる作品。
台詞が少なくても演技で伝わってくる俳優さんばかり。
満島ひかり演じる佳乃が自分で撒いた種なのは否めないが、実家の床屋を抜け出す人生を踏み出すために、久留米で一人暮らしを始め、孤独を感じる中ナンパしてきた大学生の増尾に入れ込んでしまったのは、深津絵里演じる光代が、佐賀の国道沿いに人生が集約されているところから裕一と出会い違う世界を知り人を好きになり、大胆な逃避行を選んだのと気持ち的には変わらない。
妻夫木聡演じる祐一に対してや家族への振る舞いを比べれば、佳乃は利己的で光代は優しく包容力と見えるが、見栄を張ったり利己的な嘘をつくかどうかの違いだけなことに気付く。
肉体労働でもいつも長崎から久留米まで来てくれた妻夫木聡演じる祐一は言葉数が少なくても佳乃をちゃんと愛してくれていたのに、裏切り、母親から置き去りにされた過去を持つ祐一を捨てるような言葉を吐いて傷つけ、まさおに振られひどい仕打ちを受けた腹いせに、祐一をレイプ犯に仕立て上げるとまで罵った佳乃の言動は簡単に許される物ではない。友達といても見栄を張り嘘をつき、保険の仕事に協力もしてくれているお父さんをも社会人にもなって都合よくあしらう佳乃。
それでも、亡くなれば悲しむ両親はいるわけで、人間誰かしらが誰かの幸せを願っている。増尾のように、そういった事すらわからず、軽んじて大きな顔をする者はやはり嫌なやつである。常に周りに友人や女性がいて軽口をたたくには事欠かないが、中身薄。
一方、地域の老人や祖父の病院通いを献身的に助け、無口で決して派手ではないが優しい若者だった祐一。車が好きで同世代という点以外、増尾とは正反対だが、両親が大切に想っている佳乃の命を奪ってしまったのは祐一。
「世の中、大切な人すらいない人間が最近多い。
失う物がないから、強いかのように振る舞うが、人間そういうものではない。」
そう話す、娘を失った悲しみの淵にいながらも、娘の欠点にも気付いていた父親の言葉は重く沁みる。それでも、娘を失えば仇を打ちたい怒りにとらわれ、理性で必死に制御する悔いと取り返しのつかない悔しさと、やり場のない怒り、思い知らせたい怒りと葛藤する、柄本明演じる父親役がとても印象に残った。
佳乃も祐一も光代も、愛を求めて必死に生きて前に進もうとしていただけなのに。嘲笑う増尾でさえ、奥底には孤独があり、取り繕った強さなことが露見される。
被害者の父親と、加害者を育てた樹木希林演じる祖母という2人の間にも、大切に育ててきた子で良いところも沢山ある子とわかっているのに、何を間違えてこうなったのかという自責の念が共通していると思う。
途中まで、悪い事はしていないと思っていた祐一は歌舞伎なら正義を示す赤を着ているが、途中、自分の罪を自覚し後悔にかられてからは悪人の青に変わる。祐一を守っているかのように見える光代が赤を着始めるが、光代との幸せを台無しにした後悔と殺人の悔いに苛まれ、祐一を苦しませているのは光代でもある。でも、所謂殺人犯なんだから、俺は悪いんだ。祐一がそう言いたいかのように、光代の首を絞めるラストシーンは、光代に何も背負わせず祐一を悪者として忘れる事で幸せになってほしいという、去り際の祐一の九州男児としての男気を感じる。祐一の過去を知り、もう一度灯台に置き去りにさせたくないと、一度交番に匿われても抜け出して灯台にどうにか戻ってくる光代に、祐一はやっと見つけた愛の喜びと共に、佳乃から何を奪ってしまったのかもよくわかるようになっただろう。
何にも巻き込まれない保証は全くないけれど、本物の愛に出会える事だって出会い系はあるようだ。辛い思い出の場でもあるが裕一と光代の思い出の場でもある灯台を訪れた2人の瞳はキラキラしているし、会って話し身体を重ねる2人はとても美しかった。
先に光代に出会えていれば。
でも、佳乃への誠意を通したがために、踏み外した祐一。満島ひかりを殺めた翌朝の解体現場でも、祐一の瞳は澄んでキラキラとしていて、佳乃も祐一も増尾も、まだ未来ある若者が、未熟者がゆえ、人の心を踏みにじったり、取り返しのつかない行為をして仇となる、非常に惜しい気持ちになる作品。
「お前は悪くなか」作中何度も出てくる言葉。
仮に結果に対して何らかの関わりがあったり、何らかの非はあったのだとしても、自分を責めていたとしても、責任を背負う立場ではなかったりする。
みんなが悪人要素はあって、そうやって社会的に犯罪者迄にはならない悪人もいるが、殺めてしまえばどんなに良いところがあっても悪人。作中の本当の悪人は、無責任に祐一を取り残して育てず、事件後平然と現れて文句を言う母親のように思えてならないが。
そういう人ほど自覚なし。
その人が本当は悪人でないと知っていても、世間から見たら殺人犯。祐一に初任給で買って貰った大切な巻き物と共に、孫を守りたい気持ちを断ち切り、実際に被害者がいる現実と向き合う覚悟を表すかのように、事件現場に結ばれた祖母の巻き物に心が苦しくなる。
どんなに愛した人でも、鉢合わせた被害者の父親の気持ち、世間の声を考慮すれば、被害者に加害者側が今花を手向けるのは勝手にあたると遠慮し、相反する気持ちと向き合う光代。どちらも、「お前は悪くなか」と声をかけられた事で、現実と向き合う強さが出た部分もあるのかもしれない。
口は災いのもと。言葉は罵るよりも、誰かを軽くするために使いたい物である。
報道の自由とメディアの品格は両立できない⁈
どうしようもなく寂しい時、気軽に連絡できる知人や友人がいなければ、〝出会い系〟に救いを求める人が今でもたくさんいるのではないでしょうか。
というか、自分の寂しさを紛らすためだけで、知人や友人に連絡するのは、相手の人にウザいとか面倒くさいとか思われそうでなかなかできないと思います。それでもSNSや仕事や学校でそれなりに忘れることが(たとえ一時的であっても)できる人が多いから、世間的には出会い系に頼る人は少数派なのだと思います。
出会い系サイトがきっかけとされる事件が発生すると、どちらかというと〝自分は常識のある側の人間〟と思ってる人たちは、被害者に対しても、そんなものに頼ってるからだ、自業自得なんじゃないか、というネガティブな反応をする人がけっこう多いように思います。また、各種報道での取り上げ方も〝孤独で可哀想な人〟〝哀れな人〟みたいな前提で人物像を解釈して〝決めつけ〟のコメントで説明されることがよくあります。報道に触れる我々の中にも、情報の一部分を知っただけで、やっぱりね、とか、どうせそういうことなんでしょ、みたいに理解したつもりになってしまうことがないとは言えません。
当事者が自分の子どもだったら?
親からすれば、子どものことを何も知らなかったことへの罪悪感と悔しさを一生抱えて生きていくしかないのに、何も知らないメディアの人たちに、勝手に定型にはめて無責任に語って欲しくはない。
樹木希林さんと柄本明さんの演技が凄すぎて、主役二人の心情よりも、親目線の印象の方が鮮明に残りました。
ラストの灯台で妻夫木さんが見せた優しさ(深津さんが逃亡幇助でなく、ただの巻き込まれ被害者となるような状況を作った)が深津さんの救いになっているのが、あの笑顔で分かりました。
悪人はやはり悪人なのか
令和に入った今頃になっての鑑賞。
演技の面では、錚々たる出演陣ゆえに素晴らしく、
作品に引き込まれた2時間だった。
人殺しの祐一(妻夫木聡)の描かれ方は、
祐一を愛する女性(深津絵里)との関係性で描かれているため、全然悪い人という感覚を得なかった。
また、殺された女性の父親は、殺人に間接的に関わることになった男に怒り狂い、真犯人である祐一への怒りは描かれなかったため、なおさら。
だが、警察、マスコミや世間の目から逃れていくうちにどんどん孤立し、不安やイライラが募り、ハラハラする犯罪者としての心理描写もしっかりと描く。
そして、その焦燥感は一定のラインを超えると諦めに変わった。
ただその間も、ずっと祐一を愛した女性が付き添い、互いに協力して飢えや寒さをしのぎ生きる姿からは、焦燥感を一時でも忘れさせる愛情があった。
最後はやはり祐一が捕まるのだが、連れ添ってくれた女性を殺すふりをして、罪を自分だけのものにしようとする。
1つの殺人事件を巡って、多くの人が巻き込まれ、偽りの情報や演技が流され、犯人像をよりクッキリと世間に映し出す。
犯罪心理やその事件に奇しくも関わった人間の取る行動が描き出され、ある意味で話のメインはその周囲への影響だったのかなと思った。
悪人は、やはり悪人であった。しかし、悪人をより悪人たらしめるのは、直接関わらない第三者なのかもしれない。
その世間の目が、犯人やその周囲の人たちを狂わせる、ある意味での凶器となるのだろう。
人間の醜さと美しさ
2回目を鑑賞し終えて、改めて良い映画だったと実感。
人間って性善説か性悪説か、昔から議論されるテーマではあるが、そもそも善悪の定義なんて現代で成されたもので、時代や国が変われば定義も変わる。他のレビューで悪人は殺人を犯した祐一に決まってる的な内容も散見されるが、作者が問うているのはそんな表面的な内容では無く、もっと本質的なものでしょう。
出会い系サイトで知り合った女にバカにされ衝動で人を殺めた男、その男から愛を受け取り庇う女、殺された女を理不尽な理由で人気の無い山中に車から蹴落とし置き去りにする大学生、殺された女の父親はその大学生に怒りの暴力を振るおうとし、殺した男を育てた祖母は詐欺に逢って現金を騙し取られ、殺人犯の身内だとしてその祖母を執拗に追い回すマスコミ群。
人間は多面的な生き物であり、虫も殺さないような一見穏やかな人でも、心の中では何人も殺しているかもしれない。が、実行しなければ罪に問われる事は無い。誰しも大切な誰かを愛する心を持ち、同時に誰かに殺したい程の怒りを持つ事だってある。これは主人公の祐一と同質であり、実行したかしないかの差でしかない。もちろんその2つは天と地ほどの隔たりがあり、普通の感覚の持ち主であれば実行できない。実行した後に自身に降り掛かってくる現実が想像できるから。
殺人は罪だが、国家間の戦争になれば相手国の兵士を殺しても基本的には罪に問われない。平和を望む心を持つ人が、戦争に駆り出され否応無しに武器を持たされ、人を殺す事は悪なのか?愛する人が襲われそうになり、暴漢を殺したら悪なのか?愛する人が病気で苦しみもがいている時、もう楽にしてくれと懇願され実行するのは悪なのか?
鑑賞した後に、そんな事を色々と考えさせられた。
映像は暗く、静かで、美しく、どこまでも切ない。俳優陣の演技は皆素晴らしく中でも妻夫木聡と深津絵理の絡みは、胸が締め付けられるように切なくて涙が溢れてきた。特に後半、妻夫木聡が深津絵理の首を絞めるシーンは、愛する人を守る為に、唯一そんな方法しかなかった切なさに涙が止まらない印象的な場面だった。
故樹木希林や柄本明、岡田将生の演技も申し分なく、特に満島ひかりは完璧に尻軽女にしか見えなかった。
楽しい映画ではないが、深く考えさせられる、自分にとっては大切な素晴らしい作品の一つ。
タクシー運転手は無神経すぎ
出会い系サイトがまるでまともな男女が知り合えるような印象・・・本当は佳乃(浦島)と同感覚の女性が多いだろうし、男はやりたいだけが多いのだろう・・・
事件は増尾がドライブ中に、ニンニク臭いという原因で佳乃を人里離れた山の中で置き去りにしてしまい、約束をすっぽかされた祐一がその車を追跡していたために途方に暮れていた佳乃に会ったことが発端だ。途方に暮れていたはずなのに祐一を罵倒する佳乃。プライドだけは高いようだが、久留米の床屋の娘であり、保険外交員の仕事も父親に頼るくらいの女。そんな過失致死とも思える事件の後、偶然にも寂しい女光代がメールしてきたわけだ。
出会い系サイトであってもまじめな交際に発展する場合もある。かなりリアルな展開なところが痛い。会ってすぐにラブホに入った二人は真剣に愛し合うようになる・・・そこからは逃避行。光代はいったん自首しようとする祐一を引き留めたくらいだったのだ。
演技力はリアリティあふれ、母親代わりとして祐一を育てあげた祖母樹木希林が詐欺まがいの健康食品を買わされるなんてサブストーリーも考えさせられる場面だ。本当の悪人は誰なんだ?と見終わった人たちは議論するであろう濃い内容。被害者、加害者家族である祐一の祖母と床屋の主人(柄本明)はさておいて、本当はいい人なんだという性善説的なところはどの人物にも当てはまりそうにないのだが、唯一いい人だと感じたのはバスの運転手(モロ師岡)だ!一方で、タクシー運転手は無神経すぎて酷い(笑)
本当はいい人なのに・・・などと観客、読者を誘導させるテクニックなんてのが感じるが、極論をいうと、ヤクザ映画の登場人物はみないい人になってしまう点が痛い・・・キネ旬もなぜ1位に選んだのか・・・
悪人。 キャストがいい。みんなの演技力。 樹木希林の演技…切なかっ...
悪人。
キャストがいい。みんなの演技力。
樹木希林の演技…切なかった。
普段は優しい孫。側にいた、育てたおばあちゃんの気持ち考えるとつらいな。
満島ひかり演じる娘にも問題はあるが、タイミングや不運が重なって起きてしまった殺人。
陥りそうな深い闇
深い内容で10年後ぐらいにまた見ると考えが変わりそうな作品。
誰もが(自分含め)登場人物の誰かになりそうな現代人を描いている。
事実、見たあと考え出すとこの作品が離れずこびりついた。
自分も愛を求めてああなる可能性はないとも言えないし、人間の弱く繊細で悲しい部分がありありと現れているような作品だし、人間の真っ黒くて醜くやらしい部分もまじまじと見せられる作品でもあるのかなと
どういう視点から見るのかも評価や考えを変えさせるだろう。
柄本明のセリフは考えさせられたなという感じ
ラストよし
最後の数十分は素晴らしい。
妻夫木が深津を絞め殺そうとしている時などは、美しすぎる映像だった。
樹木希林の安定感。
妻夫木は、あともうちょっと、ソレっぽ感を出して欲しかったかな。
ていうのを描いてる自分が、柄本さんの「そうやって生きてろ」に合致しそうで…
普遍的な愛をテーマにした作品なので、コンセプトは好きでした。
すべては一部
いろんな人が、いろんな状況を抱えて出てくるけど、みんな不器用な生き方なんですよね。普通はそんなもんじゃないですかね。
器用に生きることが良いことだとも思わないし、不器用な生き方が恥ずかしいと思わない。
みんな、求めるものは幸せなんでしょうね。
見方によって印象の変わる作品
殺人を犯した男、それを庇う女、殺害された女、殺害された女を捨てた男、殺人を犯した男の祖母と母、殺害された女の両親、、
それぞれの心情が見事に描かれててよかったですね!
果たして本当の悪人は誰なのか?
これは見方によって色々意見が分かれるんじゃないですかね?
そこにこの作品の深さがあると思うんですよ
個人的には人はみんな簡単に悪人になるんだよって言うように感じた作品でしたね
まぁ単純な見方をすれば殺した男が悪いんですけどね…
でもそれだけで片付けるには勿体無い作品だと思いました
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