劇場公開日 2010年9月11日

「【93.0】悪人 映画レビュー」悪人 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 【93.0】悪人 映画レビュー

2025年10月4日
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作品の完成度
吉田修一の原作が持つ現代の孤独、人間関係の希薄さ、地方の閉塞感、そして「悪」の定義という重層的なテーマを、李相日監督が徹底したリアリズムと情感豊かな演出で映像化
殺人犯と被害者の視点、それぞれの家族や関係者の思惑が複雑に絡み合い、単純な善悪二元論を否定する構造
九州地方の乾いた空気感や生活の細部に至る描写が、登場人物たちの置かれた環境の過酷さを際立たせる
脚本、演出、演技、美術、音楽の全てが高いレベルで調和し、観客に倫理的な問いを突きつける重厚なヒューマンドラマとして成立
監督・演出・編集
李相日監督の、人間の内面を深くえぐる容赦ない演出手腕が際立つ
特に、祐一と光代の逃避行における刹那的な愛の描写と、被害者家族、加害者家族の苦悩を交互に描く構成が秀逸
登場人物たちの心の機微を、会話だけでなく表情や間、風景の中に読み込ませる手法
光代の回想によって挿入されるラストシーンの灯台の美しさは、絶望的な状況下での一縷の希望、あるいは純粋な愛の幻影として機能
今井剛による編集は、物語のテンポを損なうことなく、緊張感と感情の抑揚を見事にコントロール
キャスティング・役者の演技
清水祐一:妻夫木聡
孤独と鬱屈を抱える殺人犯、清水祐一役
外見は金髪、しかし内面は不器用で優しさを持つ複雑な青年像を、繊細かつ鬼気迫る演技で体現
特に光代との出会いによって生まれる感情の揺らぎや、祖母への思慕の念、そして追い詰められた末の絶望的な表情は圧巻
それまでの爽やかなイメージを完全に覆し、日本のトップ俳優としての地位を確固たるものとした渾身の主演
第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、第53回ブルーリボン賞主演男優賞など、国内の主要な賞を多数受賞
馬込光代:深津絵里
祐一と出会い、逃避行を共にする女性、馬込光代役
安定しない日常と孤独から、刹那の愛にすべてを賭けるOLの悲哀と純粋さを表現
地味な外見と、時折見せる痛々しいほどの情熱とのコントラストが、光代の孤独と渇望を浮き彫りに
祐一を受け入れる際の強さと、その後の逃避行における壊れそうな儚さを見事に演じ分け
第34回モントリオール世界映画祭最優秀女優賞、第34回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など、国際的な評価と国内の賞を総なめ
増尾圭吾:岡田将生
被害者・佳乃を弄んだ大学生、増尾圭吾役
裕福な家庭に育ち、軽薄で傲慢な性格、罪の意識の希薄な「現代の若者」の象徴を体現
その屈折した悪意のなさこそが、祐一の怒りを爆発させる引き金となり、物語の重要な悪意の源となる
無責任さゆえの「悪人」像を、憎々しくもリアルに演じきり、助演として強烈な印象を残す
第34回日本アカデミー賞優秀助演男優賞にノミネート
石橋佳乃:満島ひかり
殺された保険外交員、石橋佳乃役
自己中心的で承認欲求が強く、周囲を振り回すキャラクターを、苛立ちと同時に哀れさも感じさせる絶妙なバランスで演じる
被害者でありながら、その言動が事件の遠因ともなるという複雑な役どころを、若手ながら見事に表現
登場時間は短いながら、強烈なインパクトを残し、物語にリアリティを与える重要な役割を果たす
石橋佳男:柄本明
被害者・佳乃の父、石橋佳男役
娘を失った悲しみと怒り、そして加害者とその家族への複雑な感情を、抑えた演技の中ににじませる
娘を愛しながらもその本質を理解しきれなかった父の苦悩を、その佇まいだけで雄弁に語る
終盤の祐一との対峙シーンでの圧倒的な存在感は、観客の感情を揺さぶる
第34回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞など、数多くの助演男優賞を受賞
清水房枝:樹木希林
祐一の祖母、清水房枝役
孫の犯した罪に苦しみ、それでも孫を信じようとする、地方に生きる老女の姿を体現
孫への無償の愛と、世間からの非難に晒される心境を、静かながら深い悲しみをもって演じる
その存在自体が、加害者家族の抱える重い十字架を象徴
第34回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など、多数の助演女優賞を受賞
脚本・ストーリー
吉田修一の同名小説を、原作者と李相日監督が共同で脚色
福岡での殺人事件を起点に、加害者・清水祐一と、彼を愛し逃避行を共にする馬込光代の「愛の逃避行」を軸に描く
同時に、被害者・石橋佳乃、その父・石橋佳男、そして真犯人ではないが事件の引き金となった増尾圭吾など、事件に関わる人々の群像劇としての側面も持つ
「悪人とは誰か」というテーマが全編を貫き、単なる犯罪ドラマに留まらない、現代社会の抱える闇、孤独、そして人の心の機微を深く抉る物語
映像・美術衣装
長崎、福岡、佐賀など、九州地方のロケーションを最大限に活かした映像美
特に、長崎の漁村の寒々とした風景や、都市部の無機質な出会い系サイトの描写が、登場人物たちの孤独感を強調
笠松則通による撮影は、地方特有の重い空気感と、祐一と光代の逃避行における情感を巧みに捉える
美術や衣装は、登場人物の社会的階層や心理状態を反映したリアルなもので、作品のリアリティを高める重要な要素となる
音楽
久石譲が担当
主題歌は福原美穂「Your Story」
久石譲の音楽は、物語の根底に流れる深い悲しみと、祐一と光代の純粋で痛ましい愛を静かに、かつ雄弁に彩る
過度な感情移入を避けつつ、観客の心に静かに染み入るメロディで、登場人物たちの孤独と葛藤を包み込む
アカデミー賞または主要な映画祭での受賞・ノミネート
第34回モントリオール世界映画祭 最優秀女優賞(深津絵里)受賞
第34回日本アカデミー賞 最優秀作品賞、最優秀監督賞(李相日)、最優秀主演男優賞(妻夫木聡)、最優秀主演女優賞(深津絵里)、最優秀助演男優賞(柄本明)、最優秀助演女優賞(樹木希林)、最優秀音楽賞(久石譲)など、主要な賞を含む13部門で優秀賞を受賞し、うち最優秀賞を多数獲得
第84回キネマ旬報ベスト・テン 日本映画ベスト・ワン、日本映画監督賞、日本映画脚本賞、助演男優賞(柄本明)受賞
作品
監督 李相日 130×0.715 93.0
編集
主演 妻夫木聡S10×2
助演 深津絵里 S10×2
脚本・ストーリー 原作
吉田修一
脚本
吉田修一
李相日 A9×7
撮影・映像 笠松則通 A9
美術・衣装 美術 杉本亮 衣装デザイン
小川久美子 A9
音楽 久石譲 A9

honey
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