「1つだけだけど重要な腑に落ちない点」悪人 77さんの映画レビュー(感想・評価)
1つだけだけど重要な腑に落ちない点
善悪ってなんだろう。といったテーマは普段から考えてしまうのですごく興味深い作品でした。
法さえ犯さなければ、またそれがバレていなければどんなに非道なやり方だって地位も名誉もお金もなんだって手に入る、素直で真面目で一生懸命はなぜか損をする世の中。
人殺しが英雄になる時代もそんなに昔のことじゃなくって、なにが「正」かなんて場所や時代によってすぐ形を変えるもの。
社会の中ある程度の線引きはもちろん必要なんだけど本来それは良心が決めるものであるはず。
なのに人が正しくあろうと積み重ねてきたはずの法が皮肉にもそれを許してくれない場合もあって。
この作品の場合も
佳乃は勝手なひどい女だし(それでも石橋夫婦には可愛い娘というのも重要だと思います)
圭吾は本当に最低な小さい男で、祐一の母親は言わずもがな、祐一にどうしようもない寂しさを与えた張本人です。
この物語で一番伝えたいであろう大切なメッセージ(あれに何も感じない人、悪を悪だと思ってない人がここで言う悪人なのかも。)を言った佳乃のお父さんも、奥さんという大切な人がいたから(と私は思ってる)思い止まれたものの、完全な「善」ではなくて。
謝るためだけに一時間半かけて会いにきてくれたり、最後に愛する人のために守る(違う解釈もしたけどいずれにせよ愛情不足ゆえ愛情表現が下手な祐一がするには納得できる行動だと思う)ために本物の「悪人」になった優しい祐一はそれでもやっぱり「悪」なのか?殺人を犯したのならもちろん裁かれるべきではあるけど単純に“殺人犯”イコール有無を言わさず“悪人”なのか?
こんな時代に決して誰もが他人事ではないこの話、
すごく重くていいテーマなんですが、原作を読んだときに感じたもやもやは映画でもやっぱり感じてしまいました。
1点だけなのですがそれが一番重要なことなのでどうしても腑に落ちないのです。
それは【祐一って普通に「悪人」じゃない?】
ということ。“普通に”というのが重要。身も蓋もありませんw
もちろん同情の余地は大いにあるものの、
佳乃を殺すときの祐一は切れてしまってて殺意すら感じたし
その後崖から落とすという隠蔽工作みたいなこともして
自首せず次の日普通に仕事に行って、
光代のメールに返事を出して(行き場のない気持ちをどこかにぶつけたい気持ちは伝わるけど)、
愛に負けてさらに自首せず逃亡。光代に出会うまでは悪く思ってもなかった。
気が動転していた、とか怖かった、現実逃避、じゃ済まされないレベルだと思うのです。
祐一も光代もすごく弱くてどこかが欠けてるし完全な善人だとは思わないけど、
もう少し佳乃の死を祐一の肩を持ちたくなるようなものにしてほしかったです。
殺意がわくほど憎たらしい子なのは重々承知ですがw、もっと事故や正当防衛寄りでも充分警察から終われていい事件だと思うし、
最後の描写にも愛や優しさだけでなく嫌悪感やイライラも同居してたと思うので、出会う順番がどうであれいつかは似たような事件を起こす人かもしれないという危うさが彼の逃避行に感情移入しきれない。
なので結果最初から最後までもやもやしぱなしになってしまってw
主演の二人の新境地の演技も見物でしたが、脇を固めてたみなさんの演技も本当に素敵でした。
今一番気になる女優さん満島ひかりさんの絶妙な「だってその為に会うたんやけん。」
背中で語る樹木希林さん。
そして柄本さん。
柄本さんと山崎努さんを主役にした「最高の人生のみつけ方」みたいな作品を撮ってほしい!
日本はなんでこんないい俳優を若くないからって脇でしか使わないんだろう。
みなさんの名演が光ってました。