「この映画の凄さは、映像の陶酔感かも」告白(2010) mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の凄さは、映像の陶酔感かも
原作は湊かなえの小説で、2009年本屋大賞に輝いた。
娘を、自分が担任をしていた中学生に殺された女性教師の復讐を描くというショッキングな作品。主演は松たか子。監督は、「嫌われ松子の一生」で独自の世界を作り上げた中島哲也。
期待以上の、鋭い感覚(感性)と完成度の高い傑作。
スタンリー・キューブリックの「時計じかけのオレンジ」と「シャイニング」を彷彿させる。「時計じかけー」のアクションの華麗さ、それに白を基調とした色彩の使い方で、派手さより抑えた色調が、なんとも血の濃い赤を感じさせるところは「シャイニング」を思い出す。
演技、映像、音楽、すべてがしっかり監督が吟味して作られてるところもキューブリックを彷彿させる。
アクションが(これほど日常のものを扱いながら)、華麗にハイスピードでしっかりと決まり、それ自体の映像だけでも、見ていて心地よい。子どもをプールに投げるとき、子どもが孤を描いてプールに落ちてゆく様は、ストーリーを超えて見ていて心地良い。 そんなシーンが随所に見られる。
それに音楽の使い方、効果音の使い方、どれも唸ってしまう。当然、子役を含め演技も、過不足ない。ラストの少年Aの叫びも素晴しい。
映像の陶酔感のある映画だった。内容よりも、その点が私には、この映画の凄さだと思う。
それで、内容-。
私は、映画を見終わってすぐに原作本を読んだ。
映画は、この原作をうまく、また原作の衝撃も余すことなく表現していたと思う。
原作は、この現代の教育、子育てを鋭く、寓話として描ききったことに感嘆してしまう。問題を提起した点も、その問題をストレートに伝わるのは、やはり原作だったというのが印象。原作はラストも、突き放した感じが凄い。
~~ 詳しく書くと、
「原作」では、最終章の前の章が、少年Aの告白なのだが、真相が分かる直前で、終わる。それで、最終章が担任だった森口先生の告白になるが、徹底的に少年Aを糾弾し、少年Aの反応はまったく描写されずに終わってしまう。その点が「突き放した感じ」がした。
「映画」は、当然映像でその両者を映し出しながら、描ききるので、少年Aの反応がそのまま映画的なインパクトとなる。それは、映画的だけれども、どこか、原作より救いがあるように思えた。その後の彼を想像できるように思えたから。~~
映画はあまりに映像の出来が良すぎて、メッセージ部分が華麗な映像美に心を奪われてしまい、弱くなってしまったのかなと思う。原作のほうがストレートに伝わると思った。
それでもこの映画は、身近な問題を扱った現代の痛い痛い、傑作だと思う。