「無垢な悪魔」告白(2010) U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
無垢な悪魔
驚いた。
最初の松さんの独白から最後まで釘付けだった。
はたして俺は、鑑賞中に息をしてたのだろうか?
正直…洒落じゃすまない。
俺らの時代は、洒落でも済ませるくらいに世間も自分達も緩かったし、境界線を共有してたと思う。
中学生の頃の思考まで遡るに、劇中の彼らの行動全てに合点がいく。行動やその結果は違えど、彼らの衝動には頷けるものばかりだ。
いったい今の子供達はどんな世の中を生きてるのだろうか?
俺らの時代は全て空想で完結してた。
手段も経費もないからだ。
それがどおだ?
この情報過多の時代。膨大な過去のデータは蓄積され統計的な予測が立てれてしまう。
その結果何が起こるのか。
確定された予測の裏付けだ。
「命」という未だそのシステムが解明されないものにまで、その結末が提示される。
時間という名前だけ割り振られた事象でさえ、その役割も分からぬままに断定できちゃう。
全てにおいて意味などないのでは?
そんな禅問答のよう苦悩にも「yes」と答える思想が氾濫してる。
…未知なるものは恐怖ではなく、置き去りにし捨て置けるモノなのだ。
呑気に生きてはいるが、恐ろしい世の中だ。
人を呪わば穴2つ、との諺がある。
今作では一体いくつの穴を産んだのだろうか?
娘が殺された。
ここに集約されるまでの出来事は、何も特異な事ばかりではない。当人達には大問題であるのに間違いはないが、それでも世間的に考えたら珍しい事ではないのだ。それらが集約され向かった矛先が「マナミ」だった。
もしも〇〇だったら…
この陰惨で残酷な事件は起こらなかったであろう。
各エピソードから見え隠れするのは「他人に対する敬意の欠如」だ。
自分以外の人間は、自分の為だけに存在する道具ではない。なぜそんな単純かつ明快な事が分からない社会になってしまったのか…。
イジメの根本にも、そんな身勝手な思考があるような気がしてならず、今作における殺人にも同様の発想を感じる。
そう思えば、随分と分厚いオブラートにくるんだなと思わなくもないが、行き着く先が復讐や殺害となれば、強烈なメッセージでもある。
作品自体は「告白」という題名を裏切る事なく、関係者各位の告白で構成される。
上手く出来てる。
それを表現するに照明で異空間を作ってみたり、HSで情感に訴えてみたり。
自分以外の人間の腹の内…表面からでは見破れない様々な感情がトグロを巻く。
突出した激情ではあるものの、そおいう側面は確かにあるのだと想像力を働かせるべきだろう。
殺して隠してはいても、その人にも感情はある。
自分の想像や予測を凌駕しする思いもよらない感情がある。
どんな人にも、だ。
少年法に守られたという世界観ではあるものの、このメッセージ自体はネットの匿名性にも転換はできる。
他人は自分のストレスの吐口ではないのだ。
とてつもなく残酷な因果応報を被る前に、懺悔するべきであると考える。
学校や思春期って環境は、本作にはとても重要で…同世代にはリアリズムを、大人達にはイマジネーションを抱かせてくれると思う。
様々な状況に転化する余白があるとでもいうのだろうか…最適な舞台装置だ。
橋本愛さんは、とてつもない鮮烈なデビューだったのだなあ。デビュー作ではないのかもしれないが、俺が認識したのは「寄生獣」からだったので、度肝を抜かれたわ。キャストは皆さま熱演かつ的確な演技で、監督の手腕も垣間見る。
復讐で口火を切った本作が更生で幕を閉じるのも、実に巧妙だ。
自分以外の命の輪郭。
それを実感するまでの代償はとてつもなく大きかった。いや、当たり前の事だ。代替えの品がない世界で唯一のモノなのだから本来価値など付けられないと思うのだ。
それを知る為に「先生」がした授業は強烈だった。
最後に投げかけた「更生」の言葉には、イジメる側の常套句である「冗談だよ」って台詞への断固たる否定を感じる。
本作「告白」のオチとしてこれ以上のモノはない。小説家・湊かなえさんの絶対領域とでもいうのだろうか…誰も踏み込めない聖域を感じた。
俺はこの台詞を聞いた時、肩の力が抜けたような気がした。まるで奈落の底で合わせ鏡を覗き込んでるような…そんな無限回廊に放り込まれた本作だったが、あの台詞を聞いた時、ああコレは小説だったのだとホッとしたのだ。
2度と観る事はないと思うが、どなた様も必ず1回は観る事を強く勧める作品であった。