「映像美だけではない」告白(2010) 華さんの映画レビュー(感想・評価)
映像美だけではない
犯人が序盤から分かっている中で進んでいくタイプの作品。自分で推理しながら見たい人にはお勧めできない。めちゃくちゃ退屈に感じるかもしれないから。
犯人が誰なのか分かっているからこそ、こいつはどういう奴でバックボーンはどうなってるんだと興味をそそる。
中島監督は、家庭不和や偽善、虚飾、そして人の心の機微をとても丁寧に描く方ですね。
とりわけ「親がこんな感じだったら子どもはこうなるから!」的な、大人としてのモラルや、子を成したことによる人間的成長がなければ物事は繋がっていかないのだということを突き付けてくるようなテーマがお得意なのかなと感じました。(つい昨日「来る」も観てきましたが、そちらにもそういう要素がかなりあったので)
娘を死に追いやられた森口の復讐が根底にありながら、様々な精神的問題を抱えた登場人物たちがそれぞれ自滅に近い形で崩壊していくような流れですが、かなり残虐なシーンが多い中、とにかく役者陣の顔の綺麗さと、血飛沫などを含めた「液体」の美しさは見惚れてしまうほど見事で、あれはもうアートの域だと思いました。
木村佳乃さんと橋本愛ちゃん、本当にスーパー美人ですね。
オチで森口が発する「なーんてね」の取り方で、この作品が何を伝えたいのか、大分意見の分かれるところだと思います。
森口が、爆弾を母親の職場に置いてきたのよという報告自体が狂言だったとすると、「まさか、そんなことするわけないじゃん。騙されて泣き叫んでやんの」の「なーんちゃって」にも取れますし(実際、あの場面で渡辺の母を殺させても娘が戻ってくるわけではないし、そもそも、一旦解体して再度修復するというほどの知識や経験が森口にあるという明確な描写はないと思うので)
違う解釈としては
「あなたのような、脳味噌の作りが異常な人間には、そもそも『更正』なんて出来るわけないんだよ」「あんたはそのまま異常者であり、これからだってたいした意味もなく人を殺すし、少年法が適用されなくなった時に人生も終わるんだよ」
的な、人間としての死刑宣告を意味する、おちょくるような諦めのような「なーんてね」とも取れますね。
だからこその、あの森口の泣き笑いの表情かなとも。どうしたって家族は帰ってこない、その虚しさの境地を表現した台詞と泣き笑い。
ミヅホと渡辺の青春シーンをフィルム的なノスタルジー感溢れる映像で表現しているのも、夢想的で美しい。渡辺にとっては暇つぶしでも、ミヅホは渡辺を憎からず思っていたはずなのに。
クライマックスの逆再生シーンは正に圧巻。
でもあれは流れ的に考えて、どう考えても渡辺の妄想、願望ですね。やっぱり母は自分のことを愛していた。自分の載っている新聞記事を読んで涙を流してるんだ!という類の、母親というものへの限りない憧憬。
見て良かった。
考えさせられます。
私も家庭不和の中で育ちましたから、余計に。