ペルシャ猫を誰も知らない : 映画評論・批評
2010年8月3日更新
2010年8月7日よりユーロスペースほかにてロードショー
楽しませながらも体制批判の姿勢を明確に示すゴバディの快作
無許可のゲリラ撮影だからこそ逆にビビッドなショットが生まれたのか。はたまた、悪条件をものともしないゴバディ監督の才能がスパークしたのか。国外での活動を目指すネガルとアシュカンのバンド・メンバー探しが、伝統音楽からラップまでのイラン・ミュージックの現状リポートに繋がり、さらにサウンドに合わせてテヘランのストリート映像が刻み込まれていく。この三位一体のリズムとバランスが何とも絶妙だ。
イスラムの締め付けが厳しいイランだから、CD発売もコンサートも音楽活動自体も役所の許可が必要で、無許可行動すると逮捕されると聞いてもさして驚かないが、こんなにたくさんのアングラ・バンドの演奏が聞けたのは実に新鮮な体験だ。彼らの音楽は素朴なサウンドとメッセージ性の強い歌詞で70年代ロックを思わせるし、厳しい状況なのに意外にのほほんとしているせいもあって、どこか懐かしくて優しい感じに包まれている。牛小屋で練習して肝炎になったり、ビルの屋上で練習して近所の子供にチクられたり、笑えるエピソードも多い。ミュージシャン役以外の登場人物まで素晴らしい喉を聞かせてくれてウキウキ見ていたら最後にガツンとやられた。やはりこれは体制批判の映画だった。楽しませながらもそれを明確に示すゴバディの快作だ。
(森山京子)