劇場公開日 2011年1月22日

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「バトラーとフォックスの火花を散らす演技と、先の読めない謎めいた報復劇に魅了されました。」完全なる報復 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0バトラーとフォックスの火花を散らす演技と、先の読めない謎めいた報復劇に魅了されました。

2011年1月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 最近見た作品では、一番の傑作でした。
 まずは、バトラーとフォックスのお互いの「正義」が相克する、火花を散らすかのようなシリアスな演技に魅入られました。特にバトラーの妻子を殺されたばかりか、ジョークとしか思え得ない司法取引で主犯を減刑してしまう主人公のクラウドの怒りの演技たるや、凄まじいのひと言。単なる怒りだけでなく、いろんな感情が入り交じったクラウドの思いを見事に表現していて、その演じ方に感動しました。最近のバトラーは、色男やアクションスターに思われがちですが、まだイギリスローカルで活躍していた頃の作品『Dr.フランク』を見たときの演技に感心したものです。性格俳優としても第一級のものを持っている俳優だと贔屓にしております。
 あの演技があるからこそ、クラウドが直接の犯人への報復だけでなく、裁判に関わったもの全員を次々処刑していく、『完全なる報復』へ突き進んでいったことへの説得力が生まれたといって、過言ではありません。

 次に、先の見えない報復方法が、これまた前代未聞、予測不可能な展開です。例えば「プリズンブレイク」のマイケルだって、クラウド同様に自ら刑務所に飛び込むわけですが、それは死刑囚となった兄を救出するためであって、誰かに報復するためにわざわざ自由が奪われる刑務所に収監されるようなことは、しないでしょう。
 ところがクラウドは独房に監禁されながらも、次々家族を殺した犯人を減刑してしまった裁判当時に関わった弁護士や裁判官を殺していくのです。
 担当検事ニックは、共犯者が外部にいるものと確信して、割り出しに躍起になりますが、一向に共犯者の線が上がってきません。
 僅かな手かがりから、復讐のからくりがネタバレされたとき、ニックだけでなく、見ている小地蔵もドキモを抜かれました。ここまでやるかぁ~という驚愕の仕掛けだったのです。
 一つヒントをいうと、クラウドは遠隔殺人のスペシャリストだったのです。顧客は諜報機関。一流のスパイが暗殺を諦めた事例でも、穴蔵に籠もった相手を仕留めるのに、様々な仕掛けを遠隔操作して、確実に仕留めるスペシャリストでした。本作でも、その一端が紹介されます。

 そして、さりげなくアメリカの司法制度の問題点を告発する作品でした。それは、検事が有罪率を上げるために、安易な司法取引に応じてしまっていること。ニックに至っては96%という異常な高率でした。ニックは本件でも確実有罪を勝ち取るために、独断で実際にクラウドの妻子に手をかけたダービーに司法取引を持ちかけて、共犯者のエイムスに不利な証言をさせて、死刑に追い込みます。
 証言の見返りとして、ダービーはなんと僅か3年で刑期を終えてしまうのです。実際にダービーが妻子を殺すところを見ていたクラウドは納得できません。そりゃあそうでしょう。
 クラウドが食い下がっても、物的証拠がないとニックに突き放されて、裁判はダービーの狙い通りの判決で終わってしまいます。
 まるっきり反省のないダービーが、居並ぶマスコミの前で、ニックに握手を求めたとき苦虫を噛み潰したような表情をニックが浮かべるのが印象的でした。
 10年後、クラウドの復讐が始まったとき、次々に物的証拠のない犯行を繰り返し、自白をニックは求めます。それに対してクラウドは、独房でのふかふかのベッドや豪華なディナーなど、刑務所ではあり得ないような特別待遇を求めるのです。
 それは10年前にニックが行った安易な司法取引を深く考え直させるクラウドの「復讐」だったのです。
 『24』シリーズでお馴染みの司法取引ですが、本作を見終わって、検察の成績アップに安直に使われてしまうのは、問題があるなと思いました。

 ところで基本は報復劇だけに、結構スプラッターな血しぶきがまうシーンがあるので、弱い方は気をつけられたほうがいいです。
 クラウドがダービーを拉致して、五体を切り刻むところでは、『ソウ』シリーズみたいにそのものズバリはなかったものの、その一歩手前のところまでは、凄惨なシーンが続きます。画像表現は、残酷シーンが押さえられていますが、台詞はかなり過激でした。

 ニックvsクラウドの戦いは、最後のニックの機転が見物です。最後の最後まで目が離せません。ドラマの結末は是非劇場で目撃して下さい。

流山の小地蔵