「映像的には素晴らしいけれど、全編が予告編みたいな構成について行けませんでした。」シチリア!シチリア! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
映像的には素晴らしいけれど、全編が予告編みたいな構成について行けませんでした。
「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ監督の最新作として、多いに期待して、見にいきました。
「ニュー・シネマ・パラダイス」の映画に対する愛情表現は、いつまでも小地蔵の心に残り忘れ得ぬ作品となっています。期待どうり、前半の監督の父親の少年時代の映像は、「ニュー・シネマ・パラダイス」にそっくりなシーンも多く出てきて、ノスタルジーをかき立てられました。特に、主人公の次男坊は「ニュー・シネマ・パラダイス」のトトによく似ていてたのです。
出色は、オープニングの仕掛け。舞台となるイタリアのバーリアの街角で、一人の少年が、煙草を買うパシリに使われて、一生懸命駆け出すところから始まります。その走りは、やがて地平を越えて、空へと舞い上がり、バーリアの全景を俯瞰で見せるのです。一連のシークエンスは、とても動的で、ああ映画だなぁと感じさせてくれました。
この少年は、ラストにも登場して、今度は時空を越えて、主人公のペッピーノ少年を現代へ引き込み、元のパシリをさせた者のところへと戻っていきます。
そこでペッピーノ少年が見たものは、自分が慣れ親しんだ街の建物たちが次々と壊されて新築されていく姿でした。記憶のいい人なら、「ニュー・シネマ・パラダイス」のラストでも、古い映画館が取り壊されるシーンを思い出されることでしょう。トルナトーレ監督のモチベーションには、時の流れに儚く消えていくものたちへの切なさが、いつも描かれてきたのではないでしょうか。
従って本作は、監督の父親の人生と故郷を描く、私小説的な作品ではあるものの、ラストで時空を越えることで、単なる回想録ではなく、監督の魂にある心象風景を綴った作品ではないかと思います。作品は監督の父ベッピーノを中心とした3世代に渡る物語であり、随所に生まれ育った故郷の街バーリアへの愛を感じられました。
但し、その故郷への愛が強すぎるのか、全編を通じてエピソードは短めで、さくさくと進んでしまいます。それはまるで全編が予告編のようだといっていいほどなのです。監督にとっては、自らのわかりきった体験を手短に紹介したい気持ちは分かりますが、時々の事情を知らない観客にとっては、取り残されてしまいます。特に、重要なストーリーの背景として、ムッソリーニの独裁政権への抵抗運動に監督の祖父が関わり、その結果、父ベッピーノは、戦後共産党の活動にのめり込んでいくという社会背景が色濃く収められているため、日本の観客には分かりづらいところもありました。
さらに、ペッピーノと監督の母となるマンニーナとの熱愛も展開が急すぎて、ロマンを感じることができませんでした。
2時間45分にわたる一家の物語としては、淡々としていて長いというのが率直な感想です。あまりグッとくるヤマ場は感じられませんでした。それでも、巨匠エンニオ・モリコーネとトルナトーレ監督が紡ぎ出すワンシーンごとの情景描写は見事な円熟ぶりを見せます。どんなに細かいエピソードでも、台詞でなく映像で見せようとする監督のこだわりには脱帽するしかありません。恐らく膨大なフィルムを回し、途方もない数のエキストラを動員して、何気ないワンシーンを見せつけてくれていることでしょう。
映画ファンにとって、本作はとても贅沢な作品だと思います。