劇場公開日 2010年10月16日

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「セットも凄いけれど、人間ドラマとしても演出が素晴らしかったです。さすがに佐藤純彌だ」桜田門外ノ変 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

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5.0セットも凄いけれど、人間ドラマとしても演出が素晴らしかったです。さすがに佐藤純彌だ

2010年10月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 作品のクライマックスとなる桜田門外の変が、前半のかなり早い時期に描かれるのが意外でした。
 事件へと至る過程で、小出しにカットバックして、事件のあらましや時代背景、そして関鉄之介が首謀者として指名を受けるまでの経緯がランダムに描かれます。
 時系列をバラバラに細かく分解して、事件時点の鉄之介の心境に繋いでいく手法は、ともすると作品全体が破綻しかねないリスクがあります。それを見事に繋ぎきっているのは、巨匠佐藤純彌の手腕の賜物でしょう。とにかく、見ていて演出が安定していて、何が描かれているのか、作り手の意図がよく見え、展開に無駄がありません。

 本作を受けるのに際し、当初佐藤監督は政治テロリズムを賛美する作品を作ってはいけないと監督を断ったのだそうです。それでも思い直したのは、なぜ事件が生まれたのか。そして関わった人たちがどんな運命を辿っていったのか、人間ドラマとして興味を持ったからだと言います。
 そのため一見バラバラな時系列を、二重構造に編成したそうです。クライマックスと鳴る暗殺場面を挟んで、襲撃に至る背景と、その後の逃走劇が完全に別の時系列で描かれていきます。この二重構造により、暗殺という政治テロを切り離し、歴史に翻弄される烈士たちの生き様がより明確にクローズアップされていきます。
 そして切り離したことで、勧善懲悪になりがちな視点を突き放し、時代を見つめること自体をテーマに描き出すことに軸をおいていきます。
 ともすると烈士を迫害するものを悪役として位置づけ易いものですが、本作では、烈士を追うものの止むを得ない事情も描き出しています。佐藤監督は、歴史の評価とは常に、現在の人が決めるもので、善も悪もないというスタンスで本作を取り組まれました。だから、史実にあくまで忠実に、エンターティメントとして面白くするためのフィクションは排除したそうなのです。

 そういうこだわりのためか、圧巻なのは桜田門のセットです。CGでなく、実際に桜田門周辺の景観をそのまま建築・再現したセットは、リアルそのもの。スタッフだけでなく、地元水戸市の意気込みを感じました。
 また、冒頭とラストで、現在の風景が映し出されていることにも注目してください。国会議事堂から桜田門へ流れていくカメラワークの意味するところは、過去の出来事が現代に繋がっているところを意図しているようです。本作は単に幕末の事件を描いたのでなく、幕末に酷似する現代への問題提起も暗示されていたのでした。
 さらに、斬り合うシーンでは、血しぶきがドバトバ飛び交い、なかなかスプラッターな描写にこだわっているのは、佐藤監督らしいところです。

 しかし本作の真骨頂は、出演者の目と目の動きだけで充分に伝わってくる繊細な人間ドラマのところなんです。冒頭から引き込まれるのは、鉄之介と妻ふさの別れのシーン。普段と変わらない朝を迎えたのに、夫のただならぬ佇まいを察知したふさは、それでも平静を装いながら、夫を見送ります。二人のかしこまった別れ方に、2度と会えない悲しみが滲み出てて、冒頭からいきなり涙を誘われました。

 後半は、大老の首を取った水戸の浪士たちが、天下のお尋ね者となり、逃亡先から次々捕まり断首されるところが描かれます。
 江戸から逃げおおせた者は、半減しましたが、それでも残った面々は、薩摩藩の挙兵に加勢するべく、京都を目指していたのです。彼らの志は、京都を制圧し、朝廷を幕府から守る勅使の兵となることでした。

 元々の発端は、朝廷が「戊午の密勅」を水戸藩に直接伝えたことから。朝廷が大名に直接指令するというのは、江戸開府以来前代未聞の出来事で、幕閣は狼狽したのです。井伊大老は、密勅は叡慮ではなく水戸の陰謀と決めつけて徹底弾圧したのでした。
 それに反発した水戸藩側は、勅書を錦の御旗に各藩に決起を呼びかけます。その結果、薩摩藩が5000名の兵をもって上京し、京都を制圧。幕政を是正しようとしたのでした。そしてこの動きと連動して江戸で仕組まれたのが、本作の井伊大老暗殺であったのです。

 薩摩藩との約定に沿って、見事首級を挙げることができた、桜田烈士たちでしたが、その後の思わぬ誤算が、悲劇となって襲いかかります。薩摩藩は島津斉彬急死のため、約定を破って、幕府に恭順してしまいました。また水戸藩でも、藩の面目のため徳川斉昭は、烈士たちを見殺しにします。
 頼りにしてきた薩摩藩と水戸藩にも追われる立場になったことが、烈士たちにとって心外だったでしょう。
 自ら観念して自害する者、捕まって断首される者、18名の烈士のうち明治まで生き残ったのは僅か2名でした。それぞれの最後は、佐藤監督だけに壮絶そのもの。そして最後のテロップで、僅か7年後に大政奉還となることが表示されるとき、もう少し上手く逃げおおせなかったのかなぁと残念に思えました。

 鉄之介を演じる大沢たかおは、烈士のリーダーながら、演じる本人の人柄の良さを感じさせる人間味溢れるところを魅せてくれました。
 江戸に残してきた情婦いのが自分のために捕まり、獄死したことを知ったとき嗚咽する姿とか、自分たちが襲撃した井伊大老を護衛した側の彦根藩士の生き残りが、家名を汚した咎により、全員が断首された知らせを聞いたとき、心痛の表情を浮かべる鉄之介に人間としての優しさを感じました。

 あと印象深い鉄之介を長らく匿った常陸国袋田村の大庄屋桜岡源次衛門との交情。あなたさま烈士の方々は、われわれ水戸のものの誇りなのですと胸を張って語りかける源次衛門の台詞に、本作に込められた水戸市民の篤い思いを垣間見た様な気がしました。それを裏付けるのが、エンディングのテロップでずらりと並ぶ地元協賛企業や個人名。よくぞここまで、かつてない規模でご当地もの県民映画が誕生できたものだと感心しました。

 『半次郎』と比べても、水戸浪士たちが何故決起して、襲撃したのか。その心情が、的確に集約されていって、後半の悲劇的結末に繋がっていき、破綻がありません。エンターテイメントとしても第一級のレベルで、ラストまで波乱に満ちた展開を楽しめました。
 今年は、時代劇の当たり年ですが、その中でもおすすめしたい作品です。

追伸
 桜田門外の変以来、敵対した水戸と彦根が、やっと和解したのは、なんと事件発生から110年もかかりました。1970年に両市の間で親善都市提携を結ばれています。

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流山の小地蔵
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