「ご飯、食べよう?」息もできない ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
ご飯、食べよう?
俳優として母国、韓国においてキャリアを積んできたヤン・イクチュンが私財を投げ打って完成させた、自身主演の人間ドラマ。
徹底的に登場人物たちを社会の底辺に突き落とし、そこから生まれる怒り、
衝動、やり場の無い葛藤を丁寧に掬い上げることで、類を見ない、観客を無条件に物語に引きずり込んでいく情念と、それでも上手く行かない毎日を必死に生きていく力を併せ持つ、秀逸な佳作として完成している。
「今日は、どなたとご飯、食べるんですか?」韓国にある程度滞在していると、知り合いの韓国人に必ずと言って良いほど尋ねられることだという。それだけ韓国では、日本以上にご飯を誰かと食べることを何よりも最優先させる文化が根付いている。
本作にも、唐突といっても過言ではないほどにいきなり、ご飯を食べる、あるいは作る場面が組み込まれている。人を殴り、大事にしたい人に殴られ、大切な人を罵って・・・。この物語の登場人物はいつも、何かを傷つけて、何かに傷つけられている。それでも、彼らは誰かとご飯を囲む。酒であったり、お菓子であったり、焼肉であったり。そして、その大切なご飯を囲む席を怒鳴り散らし、ぶち壊すのはいつも、男達だった。女達は拒絶され続けても、いつも寄り添い、一緒にご飯を食べようとした。
荒削りなカメラワークと、突き放した視線で描き出す物語においても、丁寧に寄り、見つめていくのは食事の場面。男が、最期の時、何故あれだけたくさんの人に泣いてもらえたのか。それは、どんなに荒んだ毎日でも人と向き合い、話し、一緒に食べようとしたからだと思う。暴力ばかりがクローズアップされがちな本作に潜む、食による小さな繋がりへの希望と、確信。この優しい視線も、今後の作品でどのように活かされていくのか、期待できる。
そういえば、ラストシーン、主人公ヨニの弟が荒れ狂うようにぶち壊していたものは、食べ物を売る屋台だった。ヨニはそれでも、諦めずに弟を見つめ、彼に話していくのだろう。
「ご飯、食べよう?」