劇場公開日 2009年12月5日

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「マイケル・ムーアの卑怯なところは、低所得層の不満を煽るだけで、代案となる未来ビジョンを示さないこと。かなり偏向した作品です。」キャピタリズム マネーは踊る 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

1.0マイケル・ムーアの卑怯なところは、低所得層の不満を煽るだけで、代案となる未来ビジョンを示さないこと。かなり偏向した作品です。

2009年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 サブプライムローンの破綻を受けて、アメリカ的「電波少年」であるマイケル・ムーアが選んだテーマが金融と経済。これは彼にとって初の作品にも扱った原点回帰となる作品なのだそうです。
 それにしても露骨に資本主義を悪だと決めつけ、各地の司教をインタビューしまくり、果てにはイエス様そのものまで引っ張り出して、いかに富というものが神の教えに背くものか。堕落に導くかという徹底的に資本主義と対決し、低所得者と労働者に団結を呼びかけ、金融資本に集団で抵抗を呼びかけるアジテーションな作品でした。

 マイケル・ムーアの卑怯なところは、低所得層の不満を煽るだけで、代案となる未来ビジョンを示さないこと。彼の主張するところは、徹底した平等を呼びかけている点でマルクスを敬服するほどの明かな「古典的」社会主義なのです。しかし、本人は社会主義でなく、民主主義だというのです。

 けれども富の平等な分配というのは、人民に選ばれたということを錦の御旗にする政治権力がほぼ独裁的に国民の所得を搾取し、均等にばらまくという強権を執行しないと成し遂げません。
 ちょうど今の日本も、似たような動きがあります。今の政権は表向きは選挙で選ばれたことを強調しつつ、その影では全ての利権が小沢幹事長に独裁される方向に向かっています。
 子供手当を無理に導入し、さらに年金を全部税負担にたら、その代償として消費税が25%に跳ね上がり、国民の可処分所得の自由が大幅に制限されることでしょう。

 本作の後半は特にマイケル・ムーアの経済音痴ぶりを発揮していました。日本の経験に学んだとされる昨年の銀行への7000億ドルの資本注入に、なんと彼は疑問を呈したのでした。反対した民主党議員に質問したり、各銀行を税金泥棒と独断で規定し、銀行幹部の逮捕を試みたり、袋を持って回って資本注入した金を返してくれとアポなしで迫ったのでした。

 けれども7000億ドルの資本注入を行わなければ、確実に世界恐慌となって、路頭に迷う人が続出したことです。
 マイケル・ムーアがイエス様ほ持ち出し、天国に入るためには富裕ではあってならないと説くならば、じゃあ経済の規模をイエスさま時代まで後退させて、みんな等しく貧しいことが幸福と言えるのでしょうか。
 中世のローマカトリック時代まではそれがドグマになり、科学技術の発達の足かせとなりました。キリスト教が文明の発達にそぐわなくなったのです。その根本原因は、イエスさまが僅か3年しか法を説かずに帰天されて、繁栄の考え方を教えることが出来なかったことに寄ります。
 それで、クロム・ウェルなどがピューリタン革命を行い、勤勉さによる繁栄は神の国の豊かさに繋がるということを説いて、産業革命とキリスト教の教えが矛盾しないことを強調したのでした。
 その修正されたキリスト教による繁栄の結晶が、アメリカ建国だったのです。

 ケネディの有名な言葉に、「私はすべての障害者を納税者にしたい」と語っていたそうです。ケネディがなぜこの言葉を語ったのか? それは、ケネディ家には実妹を含め、障害者が数人いて、実妹は障害を苦とせず、よく働いて、納税をしていたことによります。
 障害者でも納税ができることに、誇りと生き甲斐を感じいていたようなのです。マイケル・ムーアはそのような自立の精神を小馬鹿にしていると思います。

 そんな彼が唯一理想として示したのが、全従業員経営です。経営者も従業員も平等に経営にタッチし、収益も平等に配分するという企業を彼は作品で紹介しました。
 その企業は街なかの中規模のパン工場なのに、従業員は銀行員の3倍の給料を取っているのだというのです。
 でも疑問なのは、経営責任は誰が取るのか?まさか損益が出たら経営者だけが被り、もうけは山分けなんてことはないでしょう。この方式の恐いところは、景気が後退して、事業を縮小差ざるを得なくなったとき、リーダーシップを経営者がとれないことです。まさに日航のように、労組の抵抗を受けて、ニッチもさっちも行かなくなることでしょう。
 そして倒産のあかつきには、巨額な債務を平等に負わされてしまうところに問題があります。そういう都合の悪い面は、一切触れないという身勝手さが、マイケル・ムーアの真骨頂だと思います。

 富を憎むという点で、アメリカで経済的に成功した人が、どれだけ巨額な寄付をしているのか、全く無視しているのです。マイケル・ジャクソンの偉いところは、人知れず世界中の貧しい子供たちを助けるため巨額な資金を毎年基金として拠出してきました。
 また、世界一の富豪と要ってもおかしくないビル・ゲイツは、死後は全財産を福祉関係に寄付するという遺言を残しているそうです。
 このようにアメリカで成功した人の多くは、多額な寄付をしています。その為に、地方の行政は、税金で公共施設を建設しなくても、寄付で賄えるようになっているのです。そしてボランティア活動やチャリティも盛んです。そうした富を生み出す能力を持った人たちの社会貢献活動を一切無視しているところに疑問を持ちました。

 マイケル・ムーアはそんな貧困に喘ぐアメリカなんかよりも、社会保障が行き届いている日本が理想的な国だというのです。
 まぁ、医療保険は整っておりますけど、皆さんどう思われますか?チョット高度な医療だと自由診療になってしまうし、難病だとアメリカの高度な医療のお世話にならざるを得ないしねぇ。まぁ、日本の場合は何から何まで役人と許認可行政にカスタマイズされた保障制度ではないかと思いますよ。

流山の小地蔵