チップス先生さようなら(1939)のレビュー・感想・評価
全5件を表示
チップス先生さようなら
アルフレッド・ヒッチコック監督の戦前の傑作「三十九夜 ('35)」、ジャック・フェデー監督の「鎧なき騎士 ('37)」等で知られる英国の名優ロバート・ドーナットがチップス先生役を演じている。リメイク版のピーター・オトゥールのチップス先生も良かったが、この映画のドーナットは、20代〜80代までのチップス先生を、1939年のメーキャップのみに頼り、全て一人で演じていてまったく違和感を感じさせないところが素晴らしい。
1939年と言えば、アメリカ映画が一つの頂点を迎えた記念すべき年であり、名匠、巨匠たちが映画史に燦然の輝く名作、傑作を放った年である。「風と共に去りぬ (ヴィクター・フレミング)」、「オズの魔法使 (ヴィクター・フレミング)」、「駅馬車 (ジョン・フォード)」、「スミス都へ行く (フランク・キャプラ)」、「コンドル (ハワード・ホークス)」、「ニノチカ (エルンスト・ルビッチ)」「地獄への道 (ヘンリー・キング)」、「邂逅(めぐりあい) (レオ・マッケリー)」、「嵐ヶ丘 (ウィリアム・ワイラー)」、「大平原 (セシル・B・デミル)」、「ガンガ・ディン (ジョージ・スティーブンス)」、「ボー・ジェスト (ウィリアム・A・ウェルマン)」、「The Private Lives of Elizabeth and Essex (女王エリザベス) (マイケル・カーティス)」等が作られており、本作もそんな1939年にMGMで製作された一本なのだが、MGMでもハリウッドではなく、英国スタジオで撮られている為、スタッフ、キャストの大半がイギリス人であること、オーストリアの山の場面を中心とした旅行シーンを除けばスタジオ・ショットが少なく、実際の英国にある寄宿学校を使用して撮影されている為、リアルな雰囲気に満ちている。
翌1940年の第12回アカデミー賞の主演男優賞の候補も豪華で以下のような顔ぶれだった。
クラーク・ゲーブル:「風と共に去りぬ」
ジェームズ・スチュワート:「スミス都へ行く」
ローレンス・オリヴィエ:「嵐ヶ丘」
ミッキー・ルーニー:「青春一座」
ロバート・ドーナット:「チップス先生さようなら」
と言った名作、傑作における名演の中のトップなのだから相当価値がある時代、年のアカデミー主演男優賞なのだと言える。また、相手役のグリア・ガースンに関しては、出番自体は少なかったものの強い印象を残しており、少々厳格で、孤独性のチップス先生の人生に光を当て、ユーモアや穏やかさをももたらす存在となっていて、感動させられる。
出会いと別れ
チップス先生が着任してから引退、死去するまでの、いわば一代記である。人生の旅路で、彼が出会い、そして別れた人たちと紡いだ物語である。
とりわけ、中年を迎えてから出会った伴侶キャサリン。たった一人でも理解し応援してくれる人がいれば、それが愛する人であればなおさら、人は世界とだって戦える。
だけど、どんなに愛し合っていても、いずれは別れがやってくる。時にはとても残酷な形で。
でも彼は、亡き妻が用意してくれた習慣(お茶の会)を続け、多くの生徒に慕われる存在となった。
学校を訪れた軍人が生徒を見て「彼らは明日の将校となろう」と言った時、先生は「では明日が来ないことを祈ろう」と呟く。祈ったり呟いたりすることしか出来なくても、時代に流されてはいけない。
全寮制のパブリックスクールというのは、どこでもあんな造りなのだろうか。ブルックフィールド・スクールの大講堂は、ハリー・ポッターシリーズのホグワーツの大講堂とよく似ている。
退職を勧められた時、彼は校長の方針に対して「生徒は機械ではない」と反論する。90年前から教育問題は同じところを堂々巡りしているのかも知れない。
古き良きハリウッド映画の人情味
チップス先生こんにちは!
子供時代は短く、老人の時代は長い。
祖父・父・息子と三世代の一族の子供時代を教師として見送るチップス先生。不死身かというほど長生きだ。子供だった生徒の孫が、まるで生まれ変わりのように入学してくるまでの長い歳月を先生として過ごしているのだから。
真面目一筋のチップス先生は、教師として着任当日に生徒にからかわれて、まともに指導できない。それを校長に指摘されると、今度は厳しくし過ぎて大事なスター選手の大会出場を阻害してしまい生徒たちに恨まれる。バランスの悪い大人であり、人としての幅がない。
真面目で誠実なのは良いが、バランスが悪くて出世も遅れる。
そんな彼に人生のバランスを教えるのは、山で出会った美女だ。
死人も出るような高山で、まるでハイキングに来たような顔でサンドイッチを頬張る破天荒な女性。
彼女が妻になり、真面目一筋のチップス先生にユーモアが生まれる。
厳しいだけでは人はついてこない、ユーモアこそが厳しい現実を救うのだ。
ちなみにチップスというのは妻が彼を呼ぶときの愛称で、本名はチッピング という。
そんな人生を変えるほどの最愛の人に不幸が起こる。
人生は喜びだけではなく悲しみがつきまとう。
若い頃には、悲しみや不幸を嫌い、人生がラクで楽しいだけなら素晴らしいのにと思いがち。
だが、悲しみや不幸こそが人の幅を広げるのだ。
チップス先生が人々から慕われる教師になれたのは、妻にユーモアを教えて貰ったからだけではない。悲しみが彼の人間としての器を大きくしたのだ。
成功だけの人生など、確かな重みのない安物だ。
だから今苦しい人は確かな器になるため、焼き物でいえば火を入れている状態と思えばいい。高温で焼かれるのは苦しいが、美しい確かなものがきっと出来上がる。素晴らしい人生を約束されているのだから嘆くことはない。
全5件を表示


