劇場公開日 2010年1月30日

「さすが伊坂」ゴールデンスランバー(2010) kaz104さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0さすが伊坂

2010年2月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

怖い

原作は未読ですが、伊坂幸太郎であれば面白くないわけがない。
中村義洋監督、堺雅人、竹内結子とくれば、「ジェネラルルージュの凱旋」じゃないですか。
面白くないわけがない。特に中村監督は、伊坂幸太郎スペシャリストですから。

仙台で首相凱旋パレード中にラジコンヘリが首相の頭上で爆発。(ここでも凱旋だ。)
首相暗殺事件と何のかかわりもない宅配ドライバー青柳(堺)。
身に覚えがないのに犯人に仕立て上げられ、知らないうちに陰謀に巻き込まれ、あっと言う間に指名手配。
仙台一体に張り巡らされた包囲網をかいくぐって、逃げる青柳。
逃げ切れるのか、青柳。

誰が何のためにこの事件を起こして、何故、青柳が犯人に仕立て上げられたのか。
全てが謎です。何故、青柳かということは映画の中で明らかになりますが、事件の真相については語られていなかったように思います。
僕は巨大な陰謀の影を表わしてほしかったのですが、あえて語らず、政治や権力の不気味さを余韻として残したかったのかもしれません。
情報操作や警察権力の正義を盾にした横暴、民衆はあっという間に騙されます。
ねつ造された証拠・用意された替え玉を見ると、現実にも行われていたら騙されているなと思ってしまいます。
ブラックな棘がささるようです。
奇しくも、新政権が誕生した日本では、映画と同様の世情であり、ひょっとしたらどこかで誰かが暗躍しているかもしれません。

緊迫した逃走劇とは逆に、逃走中に触れ合う人たちや大学時代の仲間の助けにより逃げ続けるところに、ハートウォームでウェットな人というものを挿入し、救いのある物語となっています。
会社の同僚、入院患者、花火屋、アイドル、大学の後輩、そして元彼女。
人は人との繋がりで生きている。
だから、ゴールデンスランバーなんですね。ポールはもう一度繋ぎ合わせたかった。

青柳を知る人には、彼が首相殺人をするはずはない、という妙な信用があり、逃走を継続することができます。

サスペンスの形をとっていますが、友情・人情の物語だったんですね。
青春回想シーンは甘酸っぱく、ベタです。バイトの花火屋、デートに使った古い車、思い出とともに伏線に使われています。
他にもいろいろ伏線がありますが、きっと使われるだろうと伏線は、期待通りに使ってくれます。全部拾ってくれるので、見ていて満足するくらいです。

逃走し続けることができることには、ちょっと都合がよすぎるようには感じましたが、結構、感情移入して、映画館全体で逃走を応援する空気になってきます。

この映画の魅力は、主役の堺雅人はもちろんのこと、キャラクターの素晴らしさです。
元彼女の竹内結子は、とても充実していて更に美しくなったように思います。
劇団ひとりは堺を喰うくらい良かったし、キルオの浜田岳は勝手にやっちゃてる感じがすごく良かった。
香川照之は相変わらず怪演ですし、永島敏行の不死身ぶりも楽しい。
柄本明は全部アドリブに見えるほどお気軽な感じですしね。
個人的には、出演シーンは少なかったですが、青柳の両親役の伊東四朗と木内みどりが気に入っています。ラスト少し前のシーンなんか、すごくいい味出してるんですよ。

ただ、最後はあれでよかったのかなあ、と微妙な違和感が僕の中ではあります。
でも、最初で最後、デパート?のエレベータに繋ぐシーンは、最後まで暖かくしてくれて、よかったなあという気分になりました。

kaz104