「違和感はあるが、鬼ごっこが堪能できる快作」ゴールデンスランバー(2010) ヨギベアさんの映画レビュー(感想・評価)
違和感はあるが、鬼ごっこが堪能できる快作
原作未読につき映画だけの観点でしか記せないが。
花マルのスタンプを押してもいいほど、よくできました!巻頭から考える間も与えない展開で、文字通り疾走感が溢れる。とにかく動き回るのがよい。走る!走る!走る映画に悪い作品なし。曲者をそろえた贅沢なキャスティングは、それぞれキャラクターがうまく生きていて、幅も厚みも感じられる。2時間20分の長さを飽きさせない、見ごたえのあるエンタテインメントだ。
細かい疑問は多い。なぜ犯人に仕立てられたのかなどの説明はほのめかされるに留まるし、思わせぶりに繰り返される「イメージ」というな言葉は結局投げっぱなし。謎はまったく解明されないまま。ミステリとしての興趣は、ない。
しかし、そんなことはよいのだ。そういった背景は状況作りのためのお膳立てに過ぎないのだから、ここは素直に受け入れておけばばよろしい。素直にチェイスを楽しもう。
しかし、何か物足りない。・・・そうか、軽いんだ。緊張感がない。映画があまりに整理され過ぎているので混沌としたテンションの高まりに欠けるのだ。幸運な偶然の積み重ねも、偶然ではなく必然として描かれているため、どうせうまくいくんだろうという雰囲気が醸成されてしまう。また、捕まれば殺されるという状況にもかかわらず、主人公の行動が案外軽率だしね。これは堺雅人のアッサリサッパリした飄々さが、今ひとつ危機感を感じさせない理由かもしれない。もっともそれがこの映画のいいところでもあったりするのだが。
「ゴールデンスランバー」という題名が表している青春、友情、信頼といったテーマも、なにか軽い。主人公に力を貸してくれる人たちの親切心は「袖摺り合うも他生の縁」といった程度の、行きずりの人の気まぐれにしか見えないし・・・。
もひとつ、決定的に違和感があるところ・・・、やられっぱなしのままで終わるということだ。とりあえず逃げおおせてまずはハッピーだが、犯人でもないのにどうやらこれからも逃亡者として生きなければならない予感。誰しもが、復讐しろ~!!と思ったはずだ。逃走劇の面白さだけを追及した結果、なんともカタルシスが得られない結末となってしまった。
とはいえ、焦点を逃走劇だけに絞るなら文句のない娯楽作だ。鬼ごっこの面白さを堪能できる、邦画には稀な作品といえる。