「「大作観」を覆す超怪作」インセプション goshiさんの映画レビュー(感想・評価)
「大作観」を覆す超怪作
派手な爆破、美人のヒロイン、「敵をやっつける」の一方的な構図、そして大団円。いつから「娯楽大作」は、僕らのアタマを刺激しない、もっと言えば「映像の進化」の一言で懐柔されるようなものになったのか。「インセプション」を難解だと言って一蹴する前に、考えてみてほしい。先に挙げた「ありがち」なパッケージに、映画の未来や可能性が見えるだろうか?この映画は難しいから、「じゃあ、簡単な映画を」と思いつく作品に、「ここぞ!」と特筆するような瞬間がいくつあるだろう?「インセプション」は確かに複雑で、スケールや映像は明らかに「夏の娯楽大作」仕様なのに、見終わった後はいろんな意味で肩が凝っているような、一筋縄ではいかない作品。ただ、ここにはたくさんの驚きと、それこそ「アイディア」が無限に詰まっている。街ごと折れ曲がる世界、無重力状態でのアクション、入り込んでいく夢を「階層」という仕切りで区切ることで生じるタイムラグがもたらす緊張。ノーラン監督の、他に追随を許さないダントツのファンタジアが炸裂している。前作「ダークナイト」の長さもほとんど感じさせなかったが、140分超えの映画をこれほどたるまずに仕上げられる監督も他にいないと思う。作品世界のルールや設定をすんなりのみこめないかもしれないが、大筋は至ってシンプルで、例えば「オーシャンズ11」のメンバー集め、「m;i;3」のチーム戦、そしてドラゴンボールの「精神と時の部屋」のルールなどにグッとくる人なら、絶対に後悔はしないだろう。全部見終わると、「インセプション=アイディアの植え込み」は夢の中でやるより現実の世界でやった方が簡単じゃないかという気もするが、上映中は余計なことなど考えられないはずだ。大作とはいえこれくらい「置いてきぼり」を食らった方が、映画に対する食いつきが俄然違ってくる。これからは「誰にだって分かってしまう映画」ではなく「誰もが分かりたくなる」映画が増えることを期待しよう。