インセプション : インタビュー
撮影は東京を皮切りに英ロンドン、仏パリ、モロッコ、米ロサンゼルス、カナダ・カルガリーと6カ国に渡った。まさに、スーツケースひとつでどこへでもを1作品で敢行する強行スケジュールだったが、そのあたりもここ数年で培った経験が生きている。
「東京からという感慨はなかったね。もう時差も、体力的にも、どこに行ってもアジャストできるように準備はしてあるから。その場所に行けばストンとスイッチが入る。ただ、クリス(トファー・ノーラン監督)の演出は、この先何が起こるんだろうって引っ張られていくだけだった」
「バットマン・ビギンズ」では出演シーンがそれほど多くなく、物足りなさも感じたと述懐する。計算し尽くされた構成の特撮や派手なアクションにも挑戦した今回は、ノーラン監督の現場を存分に楽しめたのではと思いきや、「いやあ、まだまだ」とどん欲だ。
「クリスのアイデア、イマジネーションは僕たちの想像を超えている。本当に彼の頭に侵入して中をのぞいてみたい(笑)。いっぱい謎があるし、もっともっと深いところでやり合いたいね」
ノーラン監督への絶大な評価と、さらなる期待感がうかがえる。一方、渡辺を「日本の国宝になるべき俳優」と持ち上げた初共演のディカプリオに対しては、「あいつは、どこでも同じこと言っているんだよ。パリのプレミアでも、マリオン(・コティヤール)をフランスの国宝って言っていたしね」と手厳しい!? だがこれも、確固たる信頼関係を築いたからこそ言えるセリフで、「思っていた以上にタフガイ。でかいバジェットの作品を引っ張っていく推進力がある」と尊敬の念も隠さない。
完成した「インセプション」を観賞後、知人らと一献傾けながら感想などを話し合った。ほぼ1シーンずつ、シチュエーションや構成の詳細について議論していくうちに、気がつけば3時間近くがたっていた。それほど、誰かと話したくなる映画だ。そのことを告げると、「そうなんだよ」と納得の笑顔を見せた。
「決して分かりやすい映画ではないし、人と話すことによって新たに感じたり、理解することもある。もう1度見れば、また違った感覚も出てくる。そういういろいろな見方をすることによって、広がってくれればと思う」
夢と現実を行き来しながら、観客をとまどいと緊張、興奮へといざなっていく「インセプション」。渡辺は自らの立ち位置を完ぺきに把握し、ノーラン監督らの期待に応えるとともに、主要キャストの後見人的な役割を果たした印象を残す。ハリウッドでの存在感も高まる一方で、キャンペーンで世界各国を回る姿もすっかり板についてきた。
全米では7月16日に封切られ、公開3日間で興行収入6040万ドルの大ヒットスタートを記録。「INCEPTION」には始まり、発端という意味もある。渡辺のさらなる躍進が、「インセプション」をきっかけに始まるだろうと、期待せずにはいられない。