「不思議な作風」人間失格 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
不思議な作風
昨年公開された『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』を観る際に、太宰治の諸作品を一度も読む機会が無く、映画本来を完全に読み切れない自分の力の無さを痛感した。元々『ヴィヨン…』が、太宰治の多くの作品から引用した内容だとゆうのを知っての鑑賞だったのも有るが…。
今回は『人間失格』単品を映像化とゆう事も在って、意を決して遂に太宰作品を初めて読んでみた訳ですが…。
いや〜難しい。一夜漬けでは歯が立たん(苦笑)
一応原作では、太宰治そのものを自ら投影した、大庭とゆう人物が自殺した動機を、遺された手記から作者(太宰治)が、その真相を探る訳ですが…。…って言うか、この説明で合ってますよね!!
それ位難解でしたね。
「これはどうあがいても映像化には向かないぞ!どうやるんだろう?」と思いましたが…。
映画本編は大庭とゆうキャラクターを掘り下げ。堀木との友情を立て軸にして、大庭の生き方に影響を与えて行く、多くの女性達との関わりを同時に描いていた。
原作だけを読むと、それらの関わり合い方がかなりややこしく、全く反芻出来なかったのですが…。
それでも映画を観終わって、例え内容面で解らなかったとは言え、ある程度の人間関係を予め理解していたのは、とても大きかったと思います。
映画を観ながら、「嗚呼!あのセリフがここで使われるのかぁ〜」や、「お!ここでそれを使うのか…」…と。何しろラジオが故障するネタが、ベルリンオリンピックに於ける「前畑ガンバレ!」の実況として生かされていたり…と。感心する事ばかりでしたね。
原作に於いてははっきりと解らなかった時代背景は、昭和16年から昭和19年12月7日の、日本軍による真珠湾攻撃による戦争開戦日に設定され。更には原作には登場しない森田剛演じる中原中也が絡んで来たりと、原作には全く縛られない自由な発想の脚本には感心しましたね。
監督自ら「(男女の)絡みは好きじゃない」との発言には、過去の監督・製作作品からして意外な感じがしましたが、結果として作品中には“その行為”は映さず、(男女の行為の)“その後”を観客の想像に委ねる事で、よりエロチックな画面作りをしていたのも驚きでした。
とても静かな画面構成で、昨今よくある音楽過剰な作品と比べると、時に濃密な空気感に息が詰まる時さえ有りました。その為に見る人を選ぶ作品かも知れません。個人的には、おそらく中身の半分も理解出来てはいないのですが、不思議な作風と相まって、味わい深い作品になっていると思います。
(2010年2月24日TOHOシネマズ西新井/スクリーン8)