「監督が仕掛けてくる、先入観トラップを考察する面白さもある。」母なる証明 ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)
監督が仕掛けてくる、先入観トラップを考察する面白さもある。
鑑賞前にさらっとあらすじを見たり、最初の20分で主要人物の、人となりをなぞり、追って行くのを観た時点で、
「この母子家庭は、少し頭の弱い息子が冤罪で捕まり、母親が息子の冤罪を晴らす映画なんだな」と思った。
でも実際は「思った」のではなく「思わされた」というのが、この作品一番の面白部分。
監督によって、そう思うように刷り込まされ、罠に嵌められたと、終盤で気づく。
人間の先入観ってヤバいね、という映画。どんでん返し系のミステリー、という所か。
種明かしは終盤で全て、明らかになるわけだが、どの時点でその罠に気づくのかを考えるのもまた、面白い。
ミステリー作品に慣れている人なら、だいぶ前に気づくのだろうけれど、
私の場合はだいぶ、監督の洗脳や刷り込みが行き届いていたせいか、
観客のほぼ全員が「ここが種明かしだ」と感じるだろうシーンまで、気づかなかった。
ただ、「気づく」の前段階というか、なんか、おかしくね?という違和感はだいぶ前に、確かにあった。
それは2つある。
まずこの母親、全然良い人に見えなかった点。
悪い人というか、冒頭からバカにしか見えなかった。
私は、世の中で一番嫌いな人種が「バカな人」なので、バカセンサーだけは鋭いほうだと思っている。
母親をどういうバカに感じたかと言うと、知能に難のある息子を、自由に行動させすぎている点になる。
だいぶ最初の、冒頭20分の、いや、開始10分時点でバカセンサーが発動していた。
保護者としての管理不行き届きを、10分辺りで感じていた。
まぁ未成年じゃないんだし、知的障害というほどの頭の弱さは描写されてないから、
過保護にするのもおかしいと言われればそうなのだけれど、
息子が見知らぬ人や、悪友設定の男らと会話してるのを、母親はジーっと見守っているだけなのだ。
放任時間が少し長く感じたのだ。
なので、母親はいつも、なにもかも、ワンテンポ遅れて行動している。
息子が警察に連行された時も、不安げに見守っているだけで、
ワンテンポ遅かったから、連行されてしまった。
妙に間の悪いババアだな、という違和感。こんなに間の悪い、言い換えれば、こんなバカテンポの母親で、冤罪が晴らせるものなのかと思ったのだ。
もう1つは息子のほうで、これは多くの人が感じたとは思うが、
物語中盤辺りで母親と面会中、ずいぶん昔の、5歳の時の農薬云々エピソードを、
鋭い視点と共に思い出したと語る点。
え?バカ設定じゃなかったの?という、強烈な逆バカセンサーが発動した瞬間だ。
頭が弱いキャラクターだから「冤罪に巻き込まれた」と思い込んでいたわけだが、
頭が弱くない、つまりただのバカじゃないという違和感が発生すると、
同時に冤罪という前提が崩れるような、不穏さがモヤモヤっと浮上することになるのだ。
なので、全ての全容が明白になるのは終盤の種明かしシーン、
つまり、母親が、ある人物の家を訪問した時に真相に気づくのだけれど、
序盤時点で母親に対する違和感、
中盤時点で息子に対する違和感が出揃った時点で、
何か大事な事を見落としてるような不安さや不穏さ、母子に対する不信感が浮上する事になる。
当初の見立てとはかなり違う展開だったし、後味も悪いタイプの作品だったが、
緊張感のあるミステリーで、鑑賞後はどっと疲れが出るような、
良い意味でのグッタリ感があり、なかなか面白かった。
本筋の犯人探しだけでなく、監督が仕掛けてくる先入観トラップの罠を考察するのも面白い。