「愛の為に踊らされ、忘れる為に彷徨し踊る」母なる証明 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
愛の為に踊らされ、忘れる為に彷徨し踊る
ポン・ジュノ監督2009年の作品。
開幕シーン。キム・ヘジャ演じる“母”が枯野で踊る。
クライマックスの母の彷徨を表した印象深いシーンなのだが、ポン・ジュノによるキム・ヘジャへのサービスカットのようにも感じた。
キム・ヘジャは“韓国の母”と呼ばれる大女優。ポン・ジュノにとっても憧れの女優であろう。
日本で言えば、中堅~若手の監督が吉永小百合を主演に招いて映画を撮ったようなもの。
日本だったら吉永小百合接待の毒にも薬にもならない安直な感動作になるだろうが、本作はポン・ジュノ映画。キム・ヘジャの鬼気迫る熱演も相まって、ポン・ジュノ監督作の中で最もシリアスでヘビーな作品となった。
漢方屋を営む母。息子と二人暮らし。
息子トジュンは知恵遅れで、母の心配の種。心配し、溺愛している。
その日もトラブルが。高級車に轢かれそうになり、友人ジンテと後を追ってゴルフ場へ。取っ組み合いになるが、乗っていたのは町の有力者。車のサイドミラーも壊され、多額の弁償金を請求される。
バカ呼ばわりされ、激昂するトジュン。トジュンは“バカ”と呼ばれると怒り出すのだ。
実はサイドミラーはジンテが壊したもの。その罪を擦り付けられた。一応友人ではあるが、トジュンが知恵遅れをいい事に小バカにしたり手を出したりもする。そんなジンテを母は快く思っていない。
弁償金に母の心配の種、友人にはいいように利用されても、トジュンは何処吹く風。ゴルフ場で拾ったゴルフボールに呑気に自分の名前を書く。
これが“小事件”なら、本筋は“大事件”。トジュンが殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう…。
一人の女子高生アジョンの死体が発見された。高台で町を見渡すような不可解な格好で遺棄。
そのアジョンと最後に会っていたのが、トジュン。前夜トジュンはジンテと飲む約束をしていたが、ジンテは現れず。帰り道、アジョンと出くわし、声を掛けた所…。
状況、目撃証言、さらに現場近くから例のゴルフボールが見つかり、トジュンが容疑者とされたのだ。
勿論、母は無実だと信じるが…。
身内が殺人事件の容疑者に。その時、家族は…?
題材的にはあるっちゃあある。よくある展開としては、有罪か無罪か、苦悩。時には奔走。
本作の母は奔走。文字通りに。
幼い頃から面倒見ていた刑事に懇願するも、相手にされず。
若い刑事が“セパタクロー”で脅迫し、トジュンはでっち上げの供述書にサインしてしまう。この田舎町で久しくもしくは初めて起きた殺人事件を早急に解決しようと、“知恵遅れ”と“状況証拠”のトジュンは打ってつけ。
母は高額を支払ってまで有能弁護士を雇うも、バカなトジュンを見て手を引く。
警察も弁護士も当てにならない。母は自ら息子の無実を証明しようとする。
これが更なる悲劇や衝撃の始まり…。
まず疑いの目を向けたのは、ジンテ。以前も息子に罪を被せ、事件の日に飲みの約束に現れず、アリバイが無い。
ジンテの家に入り(お母さん、不法侵入です…)、物的証拠を探す。ジンテが帰ってきて、連れ込んだ恋人と“お楽しみ”する間一髪あるも、血の付いたゴルフクラブを見つけ、寝静まった所を見計らって逃げ出す。
警察にゴルフクラブを提出するも、血ではなく口紅。真犯人予想が外れたどころか、ジンテに脅され、多額の慰謝料を求められる。
そんなジンテから思わぬ事を聞く。殺されたアジョンの身の回りを調べてみろ。
アジョンは生活や金の為に男どもに身体を売っていた。
彼女の携帯に遺されていた写真から、トジュンも反応を示し、一人の男が浮上する。町の外れで廃品回収をする初老の男。
母は男の元に赴くが…。
殺人事件ミステリーの醍醐味もあると同時に、本作で描かれるのは、母の狂気的愛。
息子の無実を信じる…いや、信じている。それ故善悪の境界線も越えてしまう。盲目的に暴走し、犯罪スレスレの行為を。…いや、本当に。
そんな母の“狂愛”や悲哀、苦悩を、キム・ヘジャが凄まじく体現。圧倒される。
徴兵し、除隊後のウォンビンの復帰第一作。イケメンアイドルのイメージであったが、それを払拭する本作での熱演。一見、知恵遅れで子供のような無垢さ。が、時折見せるそれとは違う別の一面…。本作で最も戦慄させられる存在。
ジンテ役、チン・グも印象的。ヤな奴だが、母に協力もしたり。最初はトジュンをいいように利用していたが、実は…。
ポン・ジュノの作品に一貫する底辺層の姿を訴える一方、演出や脚本が監督作の中でも一級。
ジャンル的には“イヤミス”。人の心の闇、二面性、善悪をあぶり出しつつ、グイグイ引き込むエンタメ性。
脚本が本当によく練られている。序盤の何気ない描写やアイテムが、終盤になって非常に大きな伏線となる。僅かな点も見逃せない。なので本作は、一度より二度三度の鑑賞の方が旨味がある。
ポン・ジュノ最上級のミステリーを堪能あれ。
初老の男の証言は、母にとって信じたくない衝撃の真実であった。
アジョンを殺したのは、トジュン。トジュンは本当にアジョン殺しの犯人であったのだ。
あの夜、トジュンとアジョンは口論になり、アジョンがトジュンをバカ呼ばわりし、カッとなったトジュンがアジョンに石を投げ付け、殺害。男はそれを見ていた。
トジュンがすぐ逮捕されたので名乗り出なかったが、トジュンが証拠不十分で釈放されると知り、警察へ証言しようとする。
その時、母は…。男を鈍器で撲殺。何度も何度も、恐ろしいまでに。
我に返った母は男の家に火を放ち、男もろとも焼失させて隠滅。
この後、母は枯野を彷徨する。開幕シーン。
息子は犯人であった。そしてその息子の無実を信じたが為に、自らも罪を犯してしまった。
悲劇と最悪の顛末…。
魂が抜け、心ここに在らず。
鍼治療には悪い記憶を消し去るツボがある。この記憶を消し去りたいが如く、枯野を踊る…。
刑事からアジョン殺しの犯人が捕まったとの連絡が。
アジョンの元恋人だが、無論これは的外れ。
母は真犯人を知っている。何故なら、犯人は…。
母はその男と面会する。真実を打ち明けようとするが、出来ない。息子を愛するあまり…。
その男もまた知恵遅れであった。
心の奥に黒く重いものを感じ残したまま、また以前のような平穏な暮らしが…。
それを取り戻せないような、更なる衝撃の事実が。
トジュンは釈放。ジンテとその恋人が迎えに来て、家へ。帰る道すがら、あの廃品回収の男の焼失した家に立ち寄る。
母にとっては記憶から消し去りたい忌まわしい場所。そこでトジュンはある物を見つける。
家に帰ったトジュンは母にそれを渡す。それは、母の鍼治療の道具。
母があの時あそこに置き忘れたのだった。
トジュンにとって、何故母のものがここに?…じゃない。
まるでトジュンは察したようだ。ここで何かあり、母が何をしたのかを…。
衝撃の事実。それは…
トジュンは知恵遅れではなかったのだ。ずっと知恵遅れのフリをしていたのだ。
それを思わせる描写もある。
自分はやってないと、善悪の判断が付く。
バカ呼ばれると激昂するなど、言葉の意味を知り、反応を示す。
そして何より…、母はトジュンが幼い頃、一度殺そうとした事があった。生活に苦しみ、二人で心中しようとしたのだ。トジュンはそれを覚えていた。知恵遅れである筈なのに。そうではない紛れもない証拠。
劇中でも時折、トジュンの目や表情が鋭い時もあった。
では、何故知恵遅れのフリを…?
知恵遅れの方が容易く生きていける。実際、皆甘い。警察は釈放し、ジンテに利用されてると思いきや実はこちらが利用し、母は特に。
息子に騙され、踊らされていた。知ってしまった息子の暗部…。
もうかつてのような平穏な暮らしは無理だろう。
一つだけ方法がある。忘れ去る事。これら全てを。
母は自分の太ももに鍼を刺す。鍼治療で悪い記憶を消し去ろうと。
そう容易く人から悪い記憶が消え去る筈もない。
ならば、悪い記憶が消え去り、忘れたフリをする。
彷徨し、踊るように。
こんにちは♪
映画館で観てTVでも観ているのに、ウォンビン、そうだったのか⁉️ •••だったかな❓
ウォンビン目当てで観に行き、
期待は外れ、血🩸と炎🔥❤️🔥の
真っ赤っかをこれでもかこれでもかと見せつけられた印象❗️でした。🥶
近大さん
先が読めない展開にスクリーンを注視していました。
見る度に( 一度しか観ていませんが、強烈な印象を残す映像が多く、近大さんのレビューを読ませて頂いている時に、様々なシーンが蘇ってきました。)…そうかも知れませんね。
近大さん
( 同じようなコメントが多くてスミマセン。。)この複雑な作品を、取りこぼす事無く細やかに文章化されましたね ✨
「フリだった」…との解釈も🤔
感受性が強く、真実を感覚的に捉えての言葉なのかと思っていました。
色んな解釈が出来そうですね。
ザラザラとしたモノが鑑賞後に残る作品でした。