「他人がやってる花札を見ている印象」サマーウォーズ ヒロさんの映画レビュー(感想・評価)
他人がやってる花札を見ている印象
最終決戦、仮想空間でのバトルのルールがよく分かんないから何に緊迫しているのか何に喜んでいるのかよく分からなかった。そしてこのよく分かんなさをずっと感じた作品だった。ルールが分からないから札の手や勝負の肝、勝敗が分からないで人がやってる花札を見ている感じ。
一見、笑いあり涙ありハラハラドキドキ、最後は感動の大団円の娯楽映画!というイメージを伝えたいんだろうな、という作り手の思いは分かった。が、どうも違和感を随所に感じた。
果てしなきスカーレットが色々な意味で話題の細田監督。
細田作品は全く見てなかったのでスカーレットの波に乗るために、まずはサマーウォーズから鑑賞した。
この作品を見て細田守監督がどういう監督かなんとなく分かった。
彼は自分が描きたい情景がまずあって、そこから物語を創作するタイプの監督だと思った。逆に言うと自分が描きたい絵を優先するので、そこに物語を当てはめるから話の筋が通らなくなってしまっている印象。
・仮想空間OZ
・田舎で過ごす夏
・数学に狂気じみた主人公
・夏休みの一家団欒で起こる家族喧嘩
・世間の混乱におばあちゃんが昔からの人の絆で立ち向かう様子
・公開手配されて家族中から白い目で見られる主人公
・家族がそれぞれの能力を結集しあう様子
・世界の危機と並行して描かれる甲子園
・家族の仇撃ちと世界の危機がリンクし、その戦場が仮想空間
これらの場面はまずこういう情景を描きたくてストーリーを作っている印象を受けた。
ここからはより詳しく話しを見ていく。
◾️ストーリーの流れ
一族の家長たるおばあちゃんを中心に個性的な家族の中に放り込まれた主人公
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そんな中、放蕩息子が帰ってきたことで家族喧嘩が勃発。
↓
おばあちゃんと主人公が理解し合う。
しかし突然、おばあちゃんが亡くなってしまう。
↓
おばあちゃんの死因は放蕩息子が遠因だった。
おばあちゃんの仇撃ちを一族総出で果たそうと立ち上がる
↓
家族がそれぞれの力を結集する。
↓
合戦。家族の仇撃ちと世界の危機がリンクしつつ、おばあちゃんの仇を打つ
↓
大団円
という流れ。
ここに描きたい情景を捩じ込んだ為、おかしな点も見られる。
◾️疑問点
観ていて疑問が生まれた点を挙げていく。
・陣内家=真田家=大阪夏の陣=サマーウォーズ
なのだと思った。ただし、真田幸村が大活躍した大阪の陣は冬の方(真田丸で戦った)。夏の陣だと真田幸村は討ち死にしてると思ったけど、田舎の夏休みを描きたいからそこはタイトルをサマーウォーズにしたのかなと思った。
もしくは上田合戦(第一次と第二次があり、第二次は関ヶ原の戦いに併せて勃発)として考えると第一次は3月、第二次は7〜9月だから第二次はサマーウォーズに該当する。
・OZという仮想空間が分からなかった。ここのアカウントを持っていれば医療情報、資産管理、通信などの生活インフラが全部一括管理できるようだ。しかし仮想空間になっておりアバターも動かせる。ゲームもできるようだ。OZは何が出来て何をする場所なのか分からなかった。
・OZの中でラブマシーンという人工知能によるハッキングが行われる。この犯人が主人公だとテレビ報道までされ大騒ぎになるのだが、特に何の説明も無く終わる。そもそも主人公はラブマシーンから送られた暗号も間違えてるし疑われないのではないか。
主人公が大事件の犯人でわちゃわちゃするイメージをやりたかったのか?
・OZの混乱によって社会が混乱する中、おばあちゃんが関係各所へ電話する。
世間の混乱におばあちゃんが昔からの人の絆で立ち向かうさまをやりたかったと思うが、電話を掛けて何をしたかったのな分からない。なので、ただただ迷惑になっている。
これもおばあちゃんが昔気質の人であるからこそ未曾有の混乱に対処出来たイメージを伝えたかったのか。
・おばあちゃんとおじさんの喧嘩
おじさんはおばあちゃんに立派になったよ、と伝えたかった。だけど昔のわだかまりがあって喧嘩になる、としたかったのかもしれない。
これはおばあちゃんとおじさんの間に実の血縁関係があれば成立したかもしれない。
ただ、おじさんは死んだおじいちゃんの妾の子。
血の繋がっていない自分を愛を持って、母となって受けてくれたおばあちゃんにあんな態度を取るおじさんとして描いてしまうと魅力的では無くなってしまう。
おじさんは
死んだおじいちゃんの妾の子で、
どうしようもない放蕩息子で、
だけどアメリカのAI開発の天才エンジニアで、
ヒロインの初恋の相手
設定を詰め込みすぎてる。
そもそも主人公に数学オリンピック日本代表候補という設定もちょっとご都合すぎるかな、と感じた。
・世界の危機とリンクする甲子園の熱戦
甲子園やってる場合じゃないよね。
原発に人工衛星落ちてくるかもしれないんだよね?
世界の危機だったんだよね?
これも家族のわちゃわちゃした感じとテレビ越しの甲子園の熱戦がリンクする情景をやりたかったのだろうと思う。
・最終対決が花札なので結局、運の勝負になっている。
おばあちゃんが好きだった花札とリンクさせての最終決戦を描きたかったのかもしれないけど、結局運で勝ってるよね?って思った。
なんで勝てたのかロジックが無い。
世界中からアカウントが集まる場面もドラゴンボールの元気玉みたいにヒロインに全世界の希望が集まる場面を描きたかったんだと思う。
だけど結局、勝つか負けるか分からない勝負に世界の人々が希望を託した理由が分からなかった。
そもそも、ヒロインのバイトに付き合わされる主人公も片想いの気持ちがあったとはいえ、じゃんけんで勝って同行できているので、ここも運によるものだ。ここは主人公が友達を出し抜くくだりを入れてやるべきだったと思う。
・最終決戦、世界中から掛け金としてアカウントが集まるとなんでヒロインのアバターの容姿が変わるの?
そういう場面を描きたかったんだと思う。
◾️よかった点
おばあちゃん。
特に幼少期のおじさんと若き日のおばあちゃんが手を繋いだ静止画。あそこは泣きそうになった。
おばあちゃんの遺言もよかったな。おばあちゃんは、しっかり人を描こうとしていてそこは凄い感動した。(このくだり、絶対、奥寺佐渡子さんの持ってる資質で描けてると思う)
◾️細田監督の傾向
細田監督は美代の油絵専攻からアニメーターになり、アニメ演出、アニメ監督というキャリアの持ち主。なのでやはり情景、絵を優先し理屈よりイメージを伝えるタイプ。
だから映像は新鮮さや美しさ、壮大さを感じて感動する。おかしい演出も上手いと思う。
ただ、ストーリーテリングの土台は無いように思える。
細田守監督はストーリーを犠牲にしても画を優先してしまう傾向があるので、出来上がった作品に違和感を感じる人は居るだろうなと思った。
と、ここまで考えてみたので、まだ見てない果てしなきスカーレットの予想。
おそらく描きたい情景を優先しすぎた為にストーリーが伝わらないと予想。
いや、もしかしたら描きたい情景の羅列でストーリーは破綻しているのかもしれない。
答え合わせをしなきゃ。
