「山田洋次演出は厭味な位に上手い」おとうと 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
山田洋次演出は厭味な位に上手い
市川版の名作『おとうと』に捧げられた、今回の山田洋次版には、前半部分に幾つかの違和感が付き纏う。
映画の前半は、蒼井優演じる吉永小百合の娘のナレーションに沿って映画は進んで行く。
その為に、おとうとよりも寧ろ“おじさん”と言った方が相応しく、更に蒼井優以外の視点による映像もちらほら出現するのが少し気になる。
また、映画のキャストを決める決め手となったのが。先ず初めに笑福亭鶴瓶と吉永小百合による姉とおとうとが念頭に置かれているだけに。小林稔侍を含んだ3人の兄弟で笑福亭鶴瓶1人だけがコテコテな大阪弁なのは、一体どうなのだろう?
吉永小百合はやむおえないとしても、小林稔侍の役柄はもう少し関西弁が達者な役者でも、と思ったのですが…。
しかし後半に進むに従い、蒼井優のナレーションが無くなるに従って、この思いは薄らいで行く。
市川版と山田版の一番の違いとして、後半笑福亭鶴瓶が入居する《みどりのいえ》とゆうボランティア施設が登場する。
これまでにも『男はつらいよ』シリーズを通して、監督山田洋次は様々なボランティア施設や、社会の歪んだ仕組みに翻弄されて来た人達を、寅さんを通じて紹介して来た経緯が有り、この辺りは監督による“拘り”に見えた。
映画の始まり辺りは、人間関係等を除き、市川版との関係性がなかなか見いだせ無いのですが。この《みどりのいえ》の出現から、姉とおとうとによる“リボンの絆”によって、市川版との関連性がはっきりと浮き彫りになって来る。
違和感と言うか“あやふや”と言うか…そんな感覚は最後まで残るのですが、それでも山田洋次演出は…。
うまい…本当にうまい!
後半にかけての人物の収束のさせ方や、脚本に於けるファーストシーンと重なるラストシーンの纏め方等は、是非若い脚本家は参考にするべきでしょう。
但し、その既成概念をぶち破る若手こそが一番望ましいのですが…。
中盤で、個人的にお気に入りのキムラ緑子が登場。これまでで一番セリフが多かったかも知れない。これをきっかけにもっと知られて欲しい女優さんです。目指せ余貴美子(笑)
(2010年2月12日TOHOシネマズ西新井/スクリーン7)