「涙腺を刺激し続ける、三世代のハチの名演!」HACHI 約束の犬 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
涙腺を刺激し続ける、三世代のハチの名演!
最初の登場の瞬間から、観客の心をグィッと引き込ませる、可愛らしい子犬時代のハチ。音楽講師の飼い犬となって、家族の一員となった青年期のハチ。そして、突然亡くなった飼い主をいつまでも駅前で待つ、年老いたハチ。と、三世代の秋田犬ハチが見せる愛らしさ、会うことのない飼い主を待ち続ける切ない表情がこの作品の最大の魅力だ。
さらに特徴的なのは、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」や「サイダーハウス・ルール」、「ギルバート・グレイブ」などの人間味あふれるドラマの名手で知られる監督ラッセ・ハルストレムが、犬にある人間性のようなものを描きだそうとしているところだ。
この作品、ローアングルからの白黒映像という犬のハチ目線の絵作りをよく目にする。だから観客も犬の気持ちになって、飼い主や自分に寄ってくる人間たちを見るので、観ている我々はよりハチへの思い入れが強くなってくる。だから、亡くなった飼い主を待ち続けるハチの気持ちが心に浸みて、涙腺が刺激されっぱなし、ということになる。ハルストレムの演出のうまさには本当に感心させられるばかりである。もっとも、それはハチの役をやった三世代の秋田犬の演技のうまさがあるからこそだ。特に、老犬になったハチの背中の哀愁には、目が潤むくらいに感動的だ。
ところで、ハチ公の物語というと「忠犬」という言葉がついてくるが、私個人はこの言葉は余計だと思う。今回、この作品を見たあとにも感じたのだが、犬が人間に忠実、なのではない、犬と人間とは同等でなくてはならない、はずだ。この作品の中でも、飼い主とハチは、まるで親友のような関係だ。だから、ハチが駅で飼い主を待ち続けたのは、もう一度親友と遊んでみたかった、のだろうと思うのだ。
これは突飛な想像ではない。我々だって、親友が亡くなったあと、酒をもって親友への墓参りをするではないか。本来の日本のハチだって、それと同じようなことをしたかったのではないだろうか。