フロスト×ニクソン : インタビュー
ロンドン、ニューヨーク・ブロードウェイで舞台「フロスト×ニクソン」のニクソン役を演じ、高い評価を得たフランク・ランジェラは、映画版でも同じ役に挑み、オスカーの主演男優賞にノミネートされた。アメリカで憎まれてきた男を演じるのはなぜ魅力なのか。このキャラクタ−を知り尽くした彼に聞いてみた。(取材・文:猿渡由紀)
フランク・ランジェラ インタビュー
「もしニクソンがやったことが今起こっても、現代人はあれほどショックを受けないだろう」
――この作品はニクソンの伝記物ではなく、辞任後、イギリス人のTV番組ホスト、デビッド・フロストが行った単独インタビューの舞台裏を語るスリリングな映画です。当時、あなたはあの一連のことをどう見ていましたか?
「あまり深く考えていなかったな。当時僕は30代前半で、俳優としてまだ駆け出しだった。女の子を追っかけることに頭がいっぱいで(笑)、政治にはそれほど興味がなかったよ。とは言え、ニクソンに対しては多くの人が持つような見解を持っていたと思う。この役を演じたことで、その見解に多少の変化は生じたが、彼がやったことが悪かったことに違いはないとは今でも思うね。彼は、自分がやったことを隠した。そのせいで自分をあんな目に追い込んだんだ」
――どんなふうにニクソンというキャラクタ−に入っていったのでしょうか?
「どんなキャラクタ−を演じる時も、僕はまず人間として考えることから始める。人は誰だって、朝起きて、シャワーを浴びて、ひげを剃るなど、みんながやることをやる。それがたまたま大統領だったり、テレビ局のエクゼクティブだったりするだけだ。役作りの具体的なステップとしては、彼に関する映像を何時間も見た。フロストとのインタビュ−番組はもちろんだが、それ以外の映像や、彼を描いたマンガ、オリバー・ストーン監督が作った映画など、ありとあらゆるものをね」
――映画版では、ニクソン役が一時ウォーレン・ビーティに決まったこともありましたね。その時、どう感じましたか?
「ウォーレンに対して『よかったね』と言ってあげたい気持ちだったよ。信じてもらえないかもしれないが、本当だ。キャスティングは俳優にはコントロールできない。俳優という職業をやっている以上、それは受け止めるしかないんだ」
――この映画を見ると、ニクソンにジョージ・W・ブッシュを重ねずにはいられません。ブッシュがやったことのほうがよほどひどいと思いますが,ブッシュはなぜニクソンのように辞任に追い込まれなかったのでしょうか?
「この40年の間に、多くのことが変わった。政治家が嘘をつき、それがばれると『ああ僕は勘違いしてた』なんて言い訳されることに人は慣れ、受け入れるようになってしまった。もしニクソンがやったことが今起こっても、現代人はあれほどのショックを受けないだろう。かつて国のトップはずっと高いところにいる人と見られていた。だが、政治家がテレビ番組に出て自分をジョークのネタにするようになってしまった今、彼らは僕らと同じ位置にいる。僕自身は、彼らには今でも高いところにいる人であってほしいと思うけれどね」