劇場公開日 2025年2月14日

「◇カルトムービーの恍惚」イレイザーヘッド 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0◇カルトムービーの恍惚

2025年2月9日
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 カルト(cult)は、ラテン語のcolo(動詞:耕す)から派生した cultus (名詞:耕作、世話、崇拝など)を語源とする言葉です。1970年代後半よりカリスマ的指導者を中心とする小規模で熱狂的な宗教団体を示す言葉として使用され始めます。狂信、盲信、故の反社会的諸事件に端を発しているようです。

 カルト映画は、一般的な評価・嗜好基準からは外れているとみなされるような作品を、熱狂的に受け入れるファンの姿に対して上記のカルト宗教集団になぞらえて使われる用語になりました。wiki

 "カルトの帝王"と呼ばれたデイヴィッド・リンチ監督の長篇映画デビュー作。12月に鑑賞していながら、そのあまりにも奇抜な世界観故に、まとめきれずにいた矢先、リンチ監督が、2025年1月16日(現地時間)に死去しました。78歳。

 モノクロフィルムで描かれる「不穏」な世界。場面は終始薄暗くて、工場騒音のようなノイズが流れ続けています。一人の男を中心に進行しますが、詳しくは語られません。恋人→子供→異形 ひたすらシュール(超現実)な展開です。

 私たちが暮らす日常の現実は、繰り返される習慣の上に、当たり前のように固定されています。幾多の物語も固定された生活習慣のルールに基づいて展開されます。一方で、リンチ監督の世界では、その当たり前が破綻しています。

 「なんやそれー」って、ツッコミを入れたくなる非現実的展開の中に、映像や音楽への細かいこだわりがあって、その緻密な繊細さに引き込まれて行ってしまうのです。知らぬ間にリンチ教信者となって、教典である映像の細部を聖書神学者のようにのめり込んで、舐めるように鑑賞するのです。

 そんなリンチ教憑依状態の鑑賞から日常に戻ると、世界が異なる色彩に見えて感じるのです。太陽の眩しさに、心から感謝の気持ちが沸き立つ感覚になります。

私の右手は左利き