ヒックとドラゴン : 映画評論・批評
2010年8月3日更新
2010年8月7日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
ドラゴンと心を通わせる少年の成長を描く“もうひとつの「アバター」”
現代のカルチャーに少しも媚びない神話的物語の奥行きと感動、そして3Dの陶酔感といい、“もうひとつの「アバター」”といえる傑作だ。
自分を“弱い”と思い込んでいるバイキングの少年ヒックが、凶暴な敵だと伝えられてきたドラゴンと心を通わせる。一見、よくあるお話のようだが、考え抜かれた設定と展開でグイグイ引き込まれてしまう。
まず、ドラゴンを人と会話できない普通の動物に描いたことが、物語に説得力と心地よいユーモアを与えている。ヒックは、撃ち落としたドラゴンにとどめをさせず、解き放つ。だが、うまく飛べなくなったと知るや、トゥースと名付け、食べ物の世話と観察を始め、嗜好や習性を見いだしていく。しかも、そのつど気づいたことをトゥースに試し、推測を検証。自分に好意を抱き、知りたい、助けたいと願うヒックの眼差しに、やがてトゥースは気を許す。その過程が、表情や動きによるトゥースの優れた感情描写と共にていねいに描かれ、意志疎通を心から喜べるのだ。
また、トゥースの飛行障害を補うためにヒックが考案する“人工しっぽ作戦”が共同作業に発展し、夢の“ドラゴン乗り”を体感できる展開と飛行描写は見事。3Dでは飛行時に顔に当たる風や海水の飛沫、霧も感じられ、自在に空を飛ぶスリルと興奮に胸躍る。
もちろん、相互理解の賛美に止まらず、社会変革の難しさをきっちり示し、自分で見て考えることの大切さや物事の多面性に気づかせてくれる物語は味わい深い。優しさや個性の意味、人生には得るものも失うものもあることを示した隠し味も素晴らしい。
(山口直樹)