「【72.2】アマルフィ 女神の報酬 映画レビュー」アマルフィ 女神の報酬 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)
【72.2】アマルフィ 女神の報酬 映画レビュー
映画『アマルフィ 女神の報酬』(2009)総合批評
2009年に公開された映画『アマルフィ 女神の報酬』は、フジテレビ開局50周年記念作品として製作されたサスペンス・ミステリー。織田裕二演じる外交官・黒田康作を主人公に、イタリアでの誘拐事件の真相を追う物語。
作品の完成度
本作の完成度は、映画としての独立性よりも、テレビドラマシリーズの導入としての役割が色濃く、作品単体では評価が分かれる。物語は豪華な海外ロケーションを背景に展開するが、誘拐事件の真相や犯人の動機は掘り下げが不十分。物語の核心に迫るにつれて、スケールが急激に縮小し、個人的な復讐劇に矮小化される点が致命的。多くの伏線や登場人物の背景が未消化のまま放置され、単一の映画としての物語の完結性が極めて低い。テレビドラマの劇場版にありがちな、説明的なセリフや過剰なナレーションも散見。壮大な映像美は称賛に値するが、それが物語に深く結びついているとは言えず、単なる観光映像の域を出ない。商業的な成功を目的とした企画性が先行し、芸術性や映画としての完成度は二の次となった印象。
監督・演出・編集
監督はテレビドラマ『白い巨塔』『ガリレオ』などを手掛けてきた西谷弘。その演出は、テレビドラマ的な手法から脱却できず、物語の重要な局面で感情を煽るようなBGMが多用される。編集も場面転換が急で、物語のテンポを損なう原因に。特に、複数の登場人物の行動を交互に描く手法は、繋がりが不自然で、映画的な緩急やリズム感が欠如。ロケ地の風光明媚な景色は素晴らしいが、物語に深く関わる必然性が見出せない点は、演出力の不足を示す。撮影技術は高いが、それを映画の文脈に昇華させる手腕に課題。
キャスティング・役者の演技
主演、助演陣は豪華だが、その実力が十分に発揮されたとは言いがたい。
織田裕二(黒田康作 役):外務省勤務の外交官。冷静沈着で優秀な仕事ぶりを発揮する一方で、過去のトラウマを抱える。織田裕二は、彼の得意とする熱血漢とは異なるクールな役柄に挑戦したが、台詞回しや仕草に時折、過去の役柄の面影が滲み出てしまい、キャラクター造形に一貫性を欠く。感情を抑制した演技は評価できるが、その機微が観客に伝わりにくい難点も。テレビドラマの劇場版として、観客が期待する「織田裕二らしさ」と、作品が求める「外交官・黒田康作」のバランスが不安定。
天海祐希(矢上紗江子 役):誘拐された娘・まどかの母親。感情的でヒステリックな言動が目立つ。天海祐希は、感情の起伏が激しい母親役を熱演。しかし、その演技が過剰なほどに感情的であり、現実味が薄い。娘を誘拐された母親としての絶望や恐怖が、悲鳴や怒声によって単純化され、繊細な内面描写にまで至っていない。キャラクターの背景が浅く、なぜそこまで感情的になるのかという動機が見えにくい脚本の影響も大きい。天海祐希の演技力をもってしても、ステレオタイプな「悲劇の母親」の枠から抜け出せなかった印象。
戸田恵梨香(安達香苗 役):日本大使館の外交官補。黒田の同僚として、彼をサポートする。戸田恵梨香は、物語の狂言回し的な役割を担うが、その存在感が希薄。台詞も説明的なものが多く、キャラクターとしての個性や深みが感じられない。黒田との関係性も表面的なもので、物語にどう絡んでいくのかという期待感を抱かせない。彼女の演技は安定しているものの、脚本が彼女のキャラクターを十分に活かせていない。
佐藤浩市(藤井昌樹 役):外務省の外交官。黒田の同僚で、彼のことを警戒している。佐藤浩市は、短い登場シーンながらも、その存在感を発揮。黒田との間に漂う緊張感や、彼の思惑を秘めた表情が巧み。物語の裏側で暗躍する人物としてのミステリアスな雰囲気を醸し出すことに成功。豪華キャストの中では、最も映画的な演技を見せた俳優の一人。
脚本・ストーリー
真保裕一によるオリジナル脚本。イタリアでの誘拐事件を軸に、外交官の活躍を描くという骨子は興味深い。しかし、物語の展開はご都合主義的な部分が多く、論理的な整合性を欠く。特に、誘拐事件の真相が明らかになるにつれて、物語のスケールが急激に縮小し、個人の復讐劇に矮小化される点が致命的。多くの伏線が回収されないまま放置され、観客を困惑させる。黒田康作というキャラクターの背景も、断片的にしか描かれず、彼の行動原理や外交官としての信念が伝わってこない。ドラマシリーズ化を前提としたような未消化な要素が多く、単一の映画としての物語の完結性が低い。
映像・美術衣装
イタリア・ローマ、アマルフィでの大規模な海外ロケは、本作の最大の魅力。壮大な遺跡や美しい海岸線、歴史的な街並みは、視覚的に観客を楽しませる。しかし、それらのロケーションが物語に深く結びついているとは言い難い。単なる「美しい背景」としての役割に留まり、映画全体の奥行きを深めるには至っていない。美術や衣装は、登場人物の職業や社会的立場を忠実に反映。外交官の黒田の洗練されたスーツ姿や、天海演じる紗江子の喪服など、キャラクターを象徴するスタイリングは適切。
音楽
菅野祐悟による劇伴は、物語の緊張感を煽る上で効果的に機能。特に、サスペンス的なシーンや追跡シーンでは、音楽が映像を盛り上げる。
主題歌はサラ・ブライトマンの「Time to Say Goodbye」。世界的オペラ歌手の起用は話題を集めたが、劇中での使用方法はやや唐突。物語の結末を象徴するような楽曲ではあるが、作品全体との一体感は薄い。
受賞歴
本作は、主要な映画賞での受賞やノミネートの事実はない。
作品
監督
西谷弘 101×0.715 72.2
編集
主演 織田裕二B8×3
助演 天海祐希 B8
脚本・ストーリー 原作 真保裕一 B6×7
撮影・映像 山本英夫 A9
美術・衣装 A9
音楽 菅野祐悟 主題歌サラ・ブライトマン
A9