アマルフィ 女神の報酬 : 映画評論・批評
2009年7月7日更新
2009年7月18日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
サスペンスに名所旧跡をうまく組み込み、夏休み気分を満たしてくれる
主演の織田裕二は、組織の中にいながらも、ちょっとアウトロー的なキャラクターがよく似合う。織田が演じる外交官の黒田は、クリスマス直前のローマで少女の誘拐事件に巻き込まれる。この種の観光地映画は、絵はがき的な風景をバックにした甘口のラブストーリーや友好親善的な人情ドラマになりがちだが、本作は誘拐事件のサスペンスにイタリアの名所旧跡をうまく組み込んでいる。
黒田と誘拐された少女の母・紗江子(天海祐希)は犯人グループに命じられるまま、あちこち引っ張りまわされる。「ローマの休日」で有名なスペイン広場では、黒田がオードリー・ヘプバーンの食べたジェラートを踏みつけながら階段を駆け上がって行くシーンに思わず笑った。バチカンのサンタンジェロ城はトム・ハンクス主演の「天使と悪魔」にも出てくるし、タイトルになったアマルフィ海岸はスカーレット・ヨハンソンが主演した「理想の女」の舞台だったので、そんな映画的記憶が呼び起こされた。
外務大臣を迎える準備に追われ、体裁ばかり気にしている日本大使館の内幕がおもしろい。「無駄使いは外交官の特権だから」という開き直ったセリフに妙な説得力があるし、イタリア語に自信がなくてあたふたする研修生・安達(戸田恵梨香)の明るさが事件の重苦しい雰囲気を救ってくれる。
デビュー作「県庁の星」で織田と組んだ西谷弘監督は全体にそつなくまとめたが、シークエンスの繋ぎ目がブツンと切れる感じがするので、編集を考慮した演出にひと工夫ほしい。しかし夏休み気分を充分満たしてくれる作品で、外交官・黒田の「渡り鳥」シリーズを期待したくなった。
(垣井道弘)