ココ・アヴァン・シャネル : 映画評論・批評
2009年9月15日更新
2009年9月18日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
女性監督ならではの視点でシャネルの原点を探ろうとした野心作
ファッション界に打って出る前の若いシャネルにスポットを当てることで、シンプルで動きやすいスタイルに頑固なまでにこだわった彼女の原点を探ろうとした野心作だ。
孤児院育ちでお針子をしていたシャネルの夢が、デザイナーではなく歌手になることだったというのも面白い。芸能界での成功に育ちは関係ない。貧しい境遇から独力でプラスの人生に這い上がりたいというシャネルのハングリー精神が見て取れる。今と違って20世紀初頭には女性が働いて自立するという概念がなかった。下層階級の娘は一生下働きで通すか、玉の輿に乗って人生を乗り換えるかの2つしか選択肢がない。シャネルがそのどちらも否定したことをキー・ポイントにしたのは、女性監督ならではの視点だ。
歌手になる夢が挫折し、裕福なエティエンヌ・バルザンの愛人として暮らしても、シャネルは自分の生き方を変えない。決して男に媚びず、言いたいことをズバズバ口にし、女学生のようなワンピースや時には男物のシャツやジャケットを改造して身につけるのだ。それは屋敷に出入りする娼婦まがいの女性たちと一線を画すためであり、コルセットのために自由に動き回れない装飾過剰なドレスへの反発でもあった。
映画のメインストーリーは、アーサー・カペルとの恋愛だが、その中に、黒という色に対する嗜好やシンプルなラインなど、シャネル・スタイルのオリジンを探すのが楽しい。シャネルはデザイナーをめざしたのではなく、ただサバイバルするために帽子を作り、洋服を作った。そんな彼女がファッション界の伝説になったなんて、ドラマチックすぎる。
(森山京子)