「クイズの正解の謎とジャマールの一生。ストーリー構成の巧みさにラブストーリーと社会背景まで描いて画面に引き込まれました。」スラムドッグ$ミリオネア 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
クイズの正解の謎とジャマールの一生。ストーリー構成の巧みさにラブストーリーと社会背景まで描いて画面に引き込まれました。
オープニングに示される『スラムドッグ$ミリオネア』のファイナルアンサー。
それは、ジャマールが正答したのはA.インチキ、B、偶然、C、実力、D、運命のどれかというクイズで始まります。
やはりアカデミー賞8部門獲得は伊達ではありませんでした。
あと一問のところで番組の司会者にインチキだと告発されて、警察に連行され拷問を受けるジャマールが尋問で答えていく全問正当の訳とは?
録画された出演シーンに答えていくジャマール。クイズの1問1問に、彼のこれまで歩んできた人生そのものが関わっていたのです。彼がファイナルアンサーの正解を記憶に焼き付けざるを得なかった、その時々の事情とは、取調官も同情を寄せるくらいの辛酸を舐めるものでした。
クイズの進行とジャマールの人生。そして、彼に辛酸を味わいさせたインド社会の差別社会や宗教対立の悲惨さなどの社会的メッセージも巧みに織り込んで、ラストシーンにまで画面に釘付けとなりました。
ホント最後のファイナルアンサーなんて、警察に拘留されていたわけですから、どうなるものかとドキドキ。本当に素晴らしいラストシーンでした。
この番組の司会者が食わせ者。ジャマールと同じく、下層階級から成り上がってきたことから、ジャマールを盛んに励まして、休憩時間にトイレで、君ももうすぐ私と同じミリオネアだねと言い寄ってきます。
このときジャマールは、次のクイズの正解を思い起こせず迷っていました。
ふと見ると、司会者は鏡に、正解と思われるアルファベットが手書きされているではありませんか。果たしてこれは天の恵みか、悪魔のささやきか、はたまた司会者の意地悪か!
そして皆さんも素朴に思うスラム出身のジャマールがなぜテレビのクイズ番組に応募しようとしたのか。それはどう見てもお金のためには見えません。
そこにはスラムで互いに孤児となったジャマールのラティカとの運命的な出会いが描かれます。1度目は孤児達を食い物にしている物乞いグループのボスによって、二度目は兄のサリームの横暴によって、生き別れになります。しかしどんなときもジャマールは、ラティカのことを忘れることはありませんでした。あらゆるツテを使ってラティカの居所を突き止めます。
ラティカがサリームが手下として使われているマフィアのボスに囲われていることを知っても、命がけで会いに行くのです。ジャマールにとってラティカはまさに運命の人であったのでした。
ボスの家で、二人は再会します。その時ジャマールは、ラティカの唯一の楽しみが『クイズ・ミリオネア』というテレビ番組を見ることだったことを知るのです。
ふたりはボスの家から脱出を試みますが、結局駅にいたところをボスの命令で捕まえにきたサリームに見つかってしまいます。刃物で脅されたラティカは、仕方なくサリームに拉致されます。このとき頬に刃物傷をサリームは負わしてしまうのでした。
ラティカを失ったジャマールは諦めませんでした。ひょんなきっかけから番組出演権を得たジャマールは、どこかできっと彼女が番組を見ていることを信じて、クイズに挑戦していたのです。そして一問でも多く正解して、長く画面に映っていたいと願いながら。
ジャマールのラティカに対する強い思いが、この作品の感動を強める重要な伏線となっていました。素敵なラブストーリーだったのです。
それとどこまでも純粋なジャマールと強欲で悪の道にどっぷり染まっていく兄サリームとの対照的な関係。でもそこは兄弟。思いやる心は忘れていませんでした。ラティカを拉致したばかりでなく、刃物傷を負わせしまったことをサリームは心から後悔していたのでした。その悔悟の気持ちからラティカに見せるサリームの優しさ、自己犠牲に涙されることでしょう。
さて感動的なストーリーだけでなく、カメラワークも見応えあります。冒頭のスラムの子供たちが悪戯により警官に負われるシーンでも、手持ち撮影やコマ落としなど希望で、子供たちの生き生きとした表情、スピード感を余すところなく描いていました。
それにしても、スターのサインをねだるためには、少年時代のジャマールに糞ダメへ飛び込まさせてしまう監督の発想力には驚きました。そこまでやらせるのか!
そしてファイナルアンサー。
ジャマールの一生がすべて明らかにされるとき、『スラムドッグ$ミリオネア』に彼が出演し、正解を重ねていくのは、もはや運命としか思えませんでした。
エンディングのラストメッセージ。
オープニングのクイズの正解がテロップで示されたとき、深いため息と感動が余韻となって心にこだましたのでした。