劇場公開日 2009年4月18日

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「思いの強さが引き寄せた運命」スラムドッグ$ミリオネア とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0思いの強さが引き寄せた運命

2020年6月21日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

興奮

知的

繰り返し出てくる映画のキーワード『三銃士』。
冒頭の学校の場面、出会いの場面、そして…。
「皆は一人の為に、一人は皆の為に」。

ハッピーエンドなのか?
確かにハッピーエンドなんだけど、楔が1つ胸に突き刺さる…。だって…。

あの時、出会わなければ・・・。
あの時、手を放さなければ…。
あの時、ムンバイに戻らなければ…。
あの時、置いてけぼりにならなければ…。
あの時、代わりを務めなければ…。
あの時、勇気ある一歩を踏み出さなければ…。
 たくさんの、偶然・必然の中でのそれぞれの選択がその後を決めていく。容赦なく、自分が望むのとは別の災難が振りかかる。その時そうせざるを得なかった。別の選択はあった?あったのかもしれない。そして、3人のそれぞれの人生は重なり、離れ、交わる。

インドを舞台にした映画。
でも、正直、舞台を他の国に移しても、物語は成り立つ。こんな現実の中で生きている子どもがいる国は他にもたくさんある。そういう現実を描き出した作品はたくさんある。

そんな中で、この映画が際立っているのは、その中で生きている子ども達を一人の人間としてちゃんと描いているから。
 監督のインタビュー記事を読んで「類型的だ」と批判があると知った。だが、その人物像に命を吹き込むのは、それぞれが経験したエピソード。そしてその時の感情・行動。それが、この映画では生き生きしている。それぞれがそれぞれの人生を駆け抜ける。
 例えば、憧れの映画俳優に会う為にジャマールがとった行動。笑った。そんな彼に嫌な顔せずに相手をする映画俳優。そうやって手に入れた宝物は…。ふくれるジャマール。そんなかけあいのエピソードが散りばめられている。

そして、それをクイズ番組という、それ自体が興奮できる要素で構成しなおしている。
 ただの回顧碌ではない。クイズの答えを巡る駆け引きもちゃんと描き出している。

うまい!!!

俳優もいい。
 主人公ジャマールは、どこか諦観したような、それでいて激しい情熱を示す。そしてぼーっとしているかと思うと意外にはしこい。ここぞというときには実行力もある。
     (今や、主役を何本もこなす俳優)
 兄サリ―ムは、賢いけれどそれが仇になるタイプをうまく出している。
 ラティカは流されつつも純愛、強さと弱さを併せ持つ美人。
 司会者は、「自分だけが全問正解者」を守ろうとする成功者であり、それゆえの厭らしさを醸し出す。
     (『ミッションインポッシブル/ゴーストプロトコル』での、駐車場でのバトルが印象的)
 警察官は、拷問する役目はいかにもって感じだし、それを取り締まるカースト上位者の警官は途中から父のような雰囲気を出す。

ラストの問題があの問題なのはヒャッポ―って感じだ。すぐに答えずにライフラインを使う流れがうまい!!!
 クイズ番組を描きたかったんじゃなくて、ジャマール達三人の生きざまの映画だねって、にんまりしてしまう。
     (クイズ番組が主体ならもっと難しい問題だろう。尤も日本ではNHKの人形劇になったり、海外で何度も映画化されている古典だが、インドではどのくらい普及しているのかは知らない。『マハーバータラ』の方が普及していそうだ)

インドでは子役を巡ってとか、かっての支配者イギリスが撮ったインド映画という批判があるとか、いろいろ耳にする。
 けれど、
私的には、こんな映画に出会えたことに感謝します。

 人生は、ぼーっと生きていたらただ流れゆくだけだが、そこから学ぼうとすれば、いくらでも学べるんだよって、カツを入れられた。尤もこの映画では、ジャマールが言うように、他のシチュエーションで学びたかったものだらけだが。
 何もしないうちにあきらめる前に、できることをやろうよ。そんな風に背中を押してもらった。

行き詰った状況で自分を憐れみたくなる時、彼らに会いに来たくなる。

とみいじょん