スラムドッグ$ミリオネア : インタビュー
ダニー・ボイル監督インタビュー
本作には舞台設定、キャラクター、音楽など、これまでのボイル映画にはない新しい要素がふんだんに盛り込まれているが、ボイル監督がデビュー作から一貫して描き続けている“サバイバル”に関する映画でもある。
「ご指摘の通り、僕はキャラクターたちを極端な状況に対峙させることが好きで、人生の細かい機微、ディテールにはあまり興味はない。例えば、『28日後...』のように、ハッと起きるとロンドンに人っ子一人いないという状況。こういう方が自分は好きなんだ。それは今回の『スラムドッグ』においても同じで、子供たちが楽しく遊んでいると母親が殺されたりとか、息子が死にそうになったりとか、もちろん実際の人生でそういったことが起きたらとんでもないことだけど、そういうドラマの中で、キャラクターをそういった立場に置くのが好きなんだ。その極端な状況に置かれれば、人はそこからなんとか抜け出そうとするし、解決しようするものなんだよ。僕の映画のほとんどは、そうやってストーリーが進んでいく。だから僕にとって“サバイバル”というのは大好きなテーマなんだ。ちなみに9月からこの『スラムドッグ』の宣伝を続けているんだけど、気がついたのが女性を主役にした映画をまだ撮っていないということ。もちろん重要な女性キャラクターはいままでたくさん登場してるけど、まだ主役にした映画は撮ってないから、それにチャレンジしたいなと思っているんだ」
オスカーを受賞して、新たな代表作となった本作だが、作品を完成させて監督自身が変わったことはどんなことなのだろうか?
「まず、60年前まではインドが大英帝国の植民地だったということで、労働者階級出身であるにもかかわらず、心のどこかで優越感を持っていた恥ずかしい自分を再教育しなければならなかった。人口6000万人のイギリスと比べて、12億人も人口がいるというインド。彼らが自分から学ぶものなんて何もないだろうけど、反対に僕は彼らから様々なことを学ばなければならなかったんだ。
それから、ムンバイというところは、本当に極端なものが隣り合わせに存在している世界で、まったく説明できないようなことがたくさんあった。すべてにおいて色々と説明をしたがる我々西洋人の常識をぶっ飛ばしてくれたんだ(笑)。だから、あるがままを受け入れるということを学んだかな。今回の撮影は他のときと違って、コントロールが一切効かなかった。常に変動し続けていて、何も決まっているものがないから、劇中のつながり(コンティニュイティ)を失うことがあったり、同じテイクを何度も撮るということが出来ないという状況だった。しかも環境的には街の通行人の数は多いし、インフラもまともに整備されていない。そんな中で、コントロールを手放さなければならないということを覚ったんだ。だけど、その代わりに得たものが鮮烈な“生”、生命感だったんだ。この経験は、映画公開後の今もアカデミー賞なんかも含めていろいろなことが起こっているけど、凄く役に立っているんだよ」
いくつもの偶然が重なってオスカー受賞という栄光を勝ち取った本作。監督によると、本作製作過程には運命に導かれたとしか思えない瞬間が数多くあったという。
「実は今回の作品は、もともとワーナー・インディペンデント・ピクチャーズ(以下、WIP)というワーナー・ブラザース映画のインディペンデントレーベルが配給する予定だったんだけど、編集中にこのWIPが閉鎖されて、アメリカでは“ビデオスルーかも”なんていう話になったんだ。そのときに、どういうわけかフォックス・サーチライトが手を差し伸べてくれて、劇場公開出来ることになった。自分にとっては、この経緯と出来事が、まさに“運命”としか思えなかったんだ。“運命”なんていうと、わりとチャーミングでロマンティックな印象を受けることが多いけど、より深遠な、複雑なものであることを今回のインドでの映画製作で実感したんだ。インドに赴くまで、運命なんてそこまで信じていなかったんだけどね(笑)」
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