グラン・トリノ : インタビュー
父と同じぐらいの190センチに届きそうな体躯で、顔は父譲りの超ハンサム。ジャズベーシストで作曲家のカイル・イーストウッドは、「ルーキー」以後の父クリント・イーストウッド監督の全作品の音楽に関わっている。3月に発表した新作アルバム「メトロポリタン」をひっさげ、6月に東京・ブルーノート東京などで日本ツアーを予定。そのキャンペーンに緊急来日した息子カイルを直撃。日本で大ヒット続映中の「グラン・トリノ」の感動的な音楽を中心に、大監督の素顔や、イーストウッド家伝統の音楽愛について語ってもらった。(取材・文:サトウムツオ)
カイル・イーストウッド インタビュー
「実際の父親はもっと穏やかな生活を送っています(笑)」
──ジャズミュージシャンになったきっかけは何でしたか?
「いつも家の中でジャズがかかっているような家庭でした。最初のすごい音楽体験は、1976年か77年のモントレー・ジャズ・フェスティバル。行きはじめて2度目で、父親とステージの間近で見たんですが、その時にカウント・ベイシー楽団が演奏していた。ビッグバンドの生演奏を見たのは初めてのことだったし、ドラムスやベースなどリズムセクションに圧倒されたことを憶えてます。その演奏後に父親のおかげで、バックステージにも入ることができて、カウント・ベイシーやサラ・ボーンといったジャズ界の巨人にも会うことができました。その体験がとても大きいですね」
──ミュージシャンとして見て、父上をどう感じていますか?
「音楽センスも素晴らしく、いい耳を持った方です(笑)。ピアノが弾けて、好きなレコードを聴きながら独学でピアノを覚えたんですよね。その上、素晴らしいメロディを書きますし、音楽の才能はかなりあります」
──「グラン・トリノ」の音楽について、ご自分でお気に入りのシーンはどんな場面ですか?
「グラン・トリノを盗もうとしたタオが、ウォルト老人に“何か償いをしたい”と申し出て、家の修理をする場面ですね。あそこはモンタージュになっていて、映画の中でも数少ないセリフがないシーンで、音楽の入れ方は絶妙でした。それと、エンドタイトルに流れる主題歌がいいですね。あの歌詞の内容も含め、素晴らしい仕上がりになりました」
──感動のエンディングで、あの主題歌を父親に歌わせたのはなぜですか?
「僕の長年の作曲のライティングパートナーであるマイケル・スティーブンスと、あの主題歌の作詞をした歌手のジェイミー・カラムと相談して決めました。その前にマイケルのアイデアで、いったん父に全曲を歌ってもらうことになってレコーディングしたんです。その父の歌の最後の部分だけを選んで、トラックの一番最初につけて、残りは歌のうまいジェイミーに歌ってもらったんですね(笑)。すごくいい曲に仕上がりましたね」
──作詞のジェイミー・カラムは20代の若さで、父イーストウッドとの関係は劇中のウォルトとタオの関係に似ていますね。どういう分担で曲を仕上げたんですか? もうひとつ、「センチメンタル・アドベンチャー」でも主人公がエンディングで歌を歌いますが、(主人公の末路に共通点がある)その2作品のみで歌うのはなぜだと思いますか?
「今回は父にあらかじめメロディのアイデアがあったようで、ピアノでポロンポロンと弾いて僕らにアイデアを伝え、それをもとに、僕とスティーブが曲を仕上げ、ジェイミーが歌詞を書いてくれました。ジェイミーを父に紹介したのは僕だけど、最後のほうは親友同士になっていました、タオとウォルトの関係のようにね(笑)
そういえば『センチメンタル・アドベンチャー』でも、父は歌いますね。2作品には共通点があるけど、それは偶然じゃないかと思う(笑)。今度会ったら、父にその質問をぶつけてみます」
──クリント・イーストウッド監督は、映画の撮影でもファーストテイクでどんどん撮り進めることが有名ですが、音楽でもインスピレーションを大事にするんですか?
「映画に限らず、音楽でも、父は決断が早い。今回は、父のお気に入りのメロディだったから、スムーズに音楽作業がうまくいきました。最近でちょっとモメたのは『チェンジリング』のほうかな。あっちは作品に占める音楽の割合が40%もあって、父も音楽の入れ方に細心の注意を払っていました。それにあっちのテーマ曲は父が作曲したもので、全体の音楽にもアイデアがあったようで、少し口うるさかったかもしれません(笑)」