「『ロード・オブ・ザ・リング』のスタッフが手掛けただけに、特に北の水の国のダイナミックな攻城戦には、懐かしさを感じました。」エアベンダー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
『ロード・オブ・ザ・リング』のスタッフが手掛けただけに、特に北の水の国のダイナミックな攻城戦には、懐かしさを感じました。
「ハッタリ」というか、途中でオチが見えてきて興ざめすることの多かったことと、世界観の暗さから嫌ってきたM・ナイト・シャマラン監督作品。しかし、本作は徹底してエンターティメントにこだわった、壮大なファンタジー作品として楽しめました。また世界観に、インド人ならではの東洋的な神秘性を取りいれて、監督の東洋へのオマージュを感じさせます。気の国でのアンやベンダーたちの活躍するところは、まるで「燃えよ!カンフー」や「少林寺」を思わせるものでした。
そして、気を鍛錬するところなど、世界を調和させる根本的な力として、こころの力にポイントを置いていることに、小地蔵的には好感が持てました。
また、主人公のアンを演じる現在12歳のリンガーの動きには、目を見張はるものがあります。彼自身は、テコンドーのテキサス州チャンピオンなのだそうですが、子供ながら、ジェット・リーを思わせるような切れ味なんです。一つ一つの型が美しいんですね。中国拳法の動きで気を操り、敵を次々とはね飛ばす場面は実に痛快です。
そして現代最高の特殊効果を担当したILMによる特撮も、さすがの出来栄え。術者らの動きに合わせ、火や水や土が、生き物のように動くのです。『ロード・オブ・ザ・リング』のスタッフが手掛けただけに、特に北の水の国のダイナミックな攻城戦には、在りし日の同作を見るかのようで懐かしさを感じました。
さて、本作の世界では、元々気、水、土、火の四つの王国が調和を保つ世界でした。各国には、それぞれの要素を操る術者「ベンダー」がいて、さらにすべての要素を操る者は「アバター」と呼ばれ、崇敬を集めていたのでした。
しかし、気の国のベンダーであったアンが、アバターとしての宿命から逃げて氷の中に閉じこもると、火の国が反乱を起こし他国を次々と征服していきました。火の国が強いのは、火の力で製鉄も強みにしており、軍艦や各種火気兵器で、他の国を圧倒しているという設定には納得。やはり超能力よりも、文明の力のほうが大局的には勝ってしまうようです。
100年の眠りから覚めたアンは、水の国のベンダー兄妹らと共に、世界を救おうとする。ここで面白ろいのは、アンは本来は、無敵の救世主であるのだけれど、修行途中で逃げ出されたため、四つの要素のうち気のベンダーとしての能力しか会得していないという点です。つまりまだ発展途上のヒーローなんです。
最初から完成されたヒーローよりも、アンのような不完全な要素を持っている主人公の方が、親近感を持てます。
本作の最後では、続編が暗示されています。今回は、アンが水の術をマスターするまでの登場編という位置づけです。残り土の力と火の力をマスターさせないよう、次回で火の国は最凶の火のベンダーを刺客としてアンに差し向けるようです。
ところで本作では、敵役の火の国の方の人間関係も、一様に悪で染まっているのでなく、興味深いものがあります。アンを追い続けるズーコ王子は、オザイ王のスパルタ教育のためか、王位を奪われるどころか、王の配下でライバルでもあったジャオ司令官には、反逆者扱いの汚名まで着せられてしまっていました。
王に対する反抗心なのか、ズーコ王子はアンを追い詰めて自らの復権を狙っているのにも関わらず、時々は青の騎士の覆面を被って、アンを救うという謎の行動を起こしていたのです。またズーコ王子を不憫に思い、付き従っていた叔父のアイロも、また水の国との決戦で、身内の火の国が不利になってしまうことをやってしまいます。
ズーコとアイロは、自我我欲に付き進む火の国にあって、アバターと精霊が導く世界の調和に帰依するこころを失っていないのではないかと思います。続編では、彼らが火の国の陰謀にどのような立ち位置で関係するのかというのも、気になるところです。